Categorification というのは, 数学用語として定義されたものではない, と思う。 数学における漠然とした類似を表現する言葉である。
理解するためには, たくさんの例をみるしかない。
トポロジーに関係した categorification の例としては, ホモロジー群が Betti数の categorification であるというのが,
最も分りやすいかもしれない。 数を集合で, 関数を関手で, といった感じで置き換えた対応になっている例である。
最も基本的なのは, 自然数の categorification としての有限集合である。
- 有限集合の成す category は自然数の集合の categorification である。 Decategorification は
cardinality function である。
有限集合は, 組み合せ論の基本的な研究対象であり, この視点に基づいた研究は古くから行われてきたようである。例えば Schanuel の
[Sch91] の冒頭には \[ \xymatrix{ \category{Set} \ar [d] \ar [r] & ? \ar [d] \\ \N \ar [r] & \Z } \] という図式がある。 この図式を可換にするような「負の集合」とは何かというのが, この論文のテーマである。この論文や
Propp の [Pro] では, Euclid空間の中の閉とは限らない多面体がその候補である。 Decategorification は,
Euler標数である。 「負の集合」については, Baez と Dolan の [BD01] の中でも詳しく扱われている。彼らは, ホモトピー論的な
group completion を使うことを提案している。
- 自然数の集合のもう一つの categorification は, 有限次元ベクトル空間の成す category である。
Decategorification は, dimension function である。
- 有限生成アーベル群の圏も自然数の集合の categorification になる。 Decategorification は, rank
function である。
この方向で, \(\Z \) の categorification として, derived category \(D(\category{Vect}/k)\) を考えるとよい, と最初に提案したのは Khovanov
なのだろうか? Grothendieck group が decategorification になっている。
Khovanov らは, 量子群を始めとして, 様々な代数的構造の categorification を はGrothendieck group
を用いて考えている。 更に, より高次のalgebraic \(K\)-theory を用いるというアイデアもある。
複素数体, ではないがそれに近いものとして \(\Z [\sqrt{-1}]\) の categorification が Tian [Tia] により monoidal dg category
とし て実現されている。Khovanov と Tian [KT19] は, \(\Z [\frac{1}{2}]\) の categorification を構成している。 その論文の最後では, \(\Z [\frac{1}{n}]\) の
categorification の候補についても挙げている。 これらは全て, Grothendieck group による categorification
である。
Grothendieck group による categorification と近いが, Grothendieck group
を基準にしないものとして, Elias と Hogancamp の [EH] で提案されている, 線形代数の categorification
がある。
他にも, 自然数 (非負整数) の categorification の例は色々ある。例えば, crossed simplicial group には
object が自然数と1対1に対応する圏が associate する。他にも, Chaptea と Habiro と Massuyeau の [CHM]
で現れる functorial LMO invariant の値域の圏などがある。
\(\Q \) の categorification, ではないが, それに近いものを考えようというのが, Diaz と Blandin の [BD08]
である。それは, finite groupoid の Euler 標数が有理数として定義できる, ということに基づいている。Joyal の species
という概念とも密接に関係している。
それを用いて, 彼らは [BD07] で hypergeometric function の combinatorial interpretation
について述べている。
Rational quantum number の categorification が, I. Frenkel と Stroppel と Sussan の
[FSS12] で考えられている。
この MathOverflow の質問では, 実数の categorification について聞かれている。回答として, Janelizde と
Street の [JS] や Bartels, Douglas, Henriques の [BDH] が挙げられている。 無限大 も含めた \([0,\infty ]\) の
categorification であるが。
monoid の categorification は, monoidal category であるが, 群 (monoid) のコホモロジーの元
(cochain や cocycle) の持つ意味をcategorify する形で Ionescu は monoidal category の
cohomology を定義している。その際, parity quasicomplex の概念を導入している。
- parity quasicomplex [Ion04]
写像の categorification として functor を考えるのは当然である。 より一般に, \(n\)-category の間の
\(n\)-functorに対し, それを categorify する \((n+1)\)-category の間の \((n+1)\)-functor を見つけるというのも, categorification
の問題である。
- Betti 数は, 有限単体複体の集合から自然数の集合への写像であるが, その categorification である関手が整係数の
ホモロジー群である。
更に, 次のような例がある。
代数的構造の categorification としては, 次のような例もある。 これは有限集合の圏が \(\N \) の categorification
であることの拡張である。
- \(\N \) 係数の formal power series rig の categorification は Joyal [Joy81] の structure
type
Fock space は, \(\bbC \) 係 数の \(1\) 変数 formal power series ring にある種の内積を入れたものである。 その上の Weyl
algebra の作用の categorification を考えるために, Morton は, [Mor06] で structure type
を考えた。 そしてその一般化として stuff type という概念を提唱している。Morton は量子力学の categorification
を目指しているようである。これらは, groupoidification として考えるとよいようである。
Jones polynomial に関連した概念として, braid群, そして Yang-Baxter方程式 がある。
- Rouquier による braid 群の圏への作用の categorification [Rou]
- Khovanov と Seidel による braid 群の Burau representation の categorification
[KS02]
- category の作用の categorification としての bicategory の作用 [Bak]
Khovanov homology やその類似の更なる categorification を考えるときには, cobordism
の成す \(2\)-category から triangulated category の成す \(2\)-category への \(2\)-functor を考えるべき,
と主張するのは, Gukov [Guk] である。その過程で triangulated category への braid 群の作用もあらわれ,
自然なアイデアに思える。
Baez の論文 [Bae97] によると, Doplicher-Roberts の reconstruction theorem が
Gel’fand-Naimark duality の categorification であることに気がついたのは Dolan らしい。
Diaz と Pariguan は [DP] で quantum field theory の基礎となるべき概念の categorification
を試みている。その中には Feynman integral や Kontsevich の star product などがある。
数理物理の関係では, string 化は categorification である, と考える人もいる。Urs Schreiber が379ページもある
Ph.D. thesis [Sch] で議論している。Schreiber は, John Baez らとともに \(n\)-Category Café という group
blog を書いている。その中では色々物理に起源を持つ categorification のアイデアが議論されていて興味深い。例えば, この
post では, symplectic 多様体の高次化とそれに associate した Lie algebra の categorification
について議論されている。
Symplectic 多様体や Mirror symmetry の関係では, real analytic manifold 上の constructible
complex of sheaves の triangulated category を cotangent bundle の Fukaya category
に埋め込むという, Nadler と Zaslow の構成 [NZ09] がある。 これは Kashiwara の characteristic cycle
の構成の categorification とみなすことができる, らしい。
Davydov [Dav07] は non-associative algebra に対して定義される nucleus という概念を
non-associative monoidal category に categorify している。
Beliakova ら [Bel+c; Bel+a] は, linear category の \(0\)次の Hochschild-Mitchell
homology (彼等は trace と呼んでいる) を decategorification として用いることを提案している。そのような
decategorification を trace decategorification と呼んでいる。 その逆の対応を trace categorification
と呼ぶのだろう。
- trace (de)categorification
Grothendieck group による categorification とは “Chern character” あるいは “trace map”
により対応しているらしい。Beliakova と Habiro と Lauda と Webster [Bel+b] は, Caldararu と
Willerton の [CW10] や Guliyev との [Bel+a] を参照している。
Chern character の categorification, あるいは functorification は Toën と Vezzosi [TV09;
TV15] で導入されている。Hoyois と Scherotzke と Sibilla [HSS] は, その精密化を提案している。
そのための, Hochschild homology の categorification は, Ben-Zvi, Francis, Nadler
[BFN10] により導入されたものである。
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