環とその上の加群

代数学の教科書は数多く出版されていて, どれを見たらよいか迷うことが多い。 可換環については, Atiyah と Macdonald の教科書 [AM69] が有名である。 非可換環については, そのような本はあるのだろうか。

ここでは環とその上の加群についての基本的な概念を集めた。 可換環のみに関することについては, 別のところにある。

まず, 環の定義であるが, Abel群が tensor product で成す category の monoid object とみなすのが, 汎用性があってよい。 例えば, ring spectrumspectrum の category の monoid object として, 自然に定義できる。

  • 環 (ring)

単位元を仮定しないものは, nonunital ring というが, これも Abel群の category の semigroup object として理解しておく方がよい。 単に ring と呼ぶ人もいるし, ring から i を除いて rng と呼ぶ人もいるようである。 加法の逆元を持たないものは, semiring という。同じ semi- という接頭辞が, semigroup のときは単位元が無いという意味になり, semiring のときは加法の逆元が無いという意味になるのは残念であるが, 共に一般的な用語になってしまったので, 今更変えられないだろう。

単位元を持たない環上の加群については, Quillen が [Qui] で調べている。これは Kato の論文 [Kat] で知った。Quillen は, [Qui96] で単位元を持たない環に対し, \(K_{0}\) の定義を修正することを提案している。それを higher algebraic \(K\)-theory に拡張することは, Mahanta が [Mah11] で考えている。

環を割って環を得るためには, イデアルになっている必要がある。

  • イデアル (ideal)
  • 素イデアル (prime ideal)
  • 極大イデアル (maximal ideal)

極大イデアルに関連して次の概念がある。

  • 局所環 (local ring)

環があればその上の加群がある。

  • 環 \(R\) 上の左あるいは右加群
  • 自由加群 (free module)
  • 右 \(R\) 加群 \(M\) と左 \(R\) 加群 \(N\) に対し, その tensor product \(M\otimes _{R}N\)
  • projective module
  • injective module
  • flat module

可換環 \(k\) 上の加群の category \(\lMod {k}\) は, \(\otimes _{k}\) により monoidal category になるが, その monoid object が, \(k\)-algebra である。

Projective module に関連した概念として, stable equivalence がある。

  • \(R\) 加群の二つの準同形 \[ f, g : M \longrightarrow N \] が stably equivalent であることの定義。またこれが同値関係であること。
  • \(R\) 加群の準同形 \[ f : M \longrightarrow N \] がstable equivalence であることの定義。

Stable equivalence は, 位相空間や spectrumホモトピーと似ている。 もっとホモトピー論に近い扱いをしようという試みもある。 Gersten の [Ger71] や, より新しい model category の方法を用いたものとしては, Garkusha の[Gar07] がある。

ある環上の module の圏で, 二つの object の間の morphism の集合を stably equivalence という同値関係で割ったものを morphism の集合としてできる圏を stable module category という。 Frobenius 環の stable module category は triangulated category になる。

  • stable module category

普通は環にいくつか条件を付けたものを考える。

  • Noether環
  • Artin環
  • principal ideal domain
  • Cohen-Macauley環
  • Gorenstein環
  • von Neumann regular ring

von Neumann regular という条件は, 環の derived categoryGenerating Hypothesis が成り立つための必要十分条件であることが, Hovey と Lockridge と Puninski の [HLP07] で示されている。その元になった Lockridge の論文 [Loc07] によると, von Neumann regular ring についての文献として [Goo91] がある。

  • von Neumann regular な可換環は体の直積の subring である。

von Neumann regular という条件を, 環から加群へ拡張, そして更に, 一般の圏へ categorification することもできる。 Dăscălescu, Năstăsescu, Tudorache, Dăuş の [Dăs+06] など。

代数的トポロジーで使う環や加群は次数付きであることが多い。

  • 環 \(R\) に対し \(R\) 上の次数付き加群 (graded module) と二重次数付き加群 (bigraded module)
  • 次数付き加群の元が homogeneous であることの定義。
  • 次数付き環 (graded ring)
  • 次数付き加群の tensor product

ある環 \(R\) 上の加群の圏を考え, その上の「良い」関手の性質を調べるのが ホモロジー代数である。 より代数的な見地からは, 加群の圏の部分圏の分類なども興味深い話題である。 これについては, Hovey の [Hov01] や Chebolu の [Che07] といった研究がある。

代表的なホモロジー代数的不変量としては, chain complex を用いて定義される Hochschild (co)homology など以外にも, より高度な homotopical algebra を用いて定義される algebraic \(K\)-theory などがある。可換環に対しては, André-Quillen (co)homology や Witt group というものもある。

References

[AM69]

M. F. Atiyah and I. G. Macdonald. Introduction to commutative algebra. Addison-Wesley Publishing Co., Reading, Mass.-London-Don Mills, Ont., 1969, pp. ix+128.

[Che07]

Sunil K. Chebolu. “Abelian subcategories closed under extensions: \(K\)-theory and decompositions”. In: Comm. Algebra 35.3 (2007), pp. 807–819. arXiv: math/0507320. url: http://dx.doi.org/10.1080/00927870601115716.

[Dăs+06]

S. Dăscălescu, C. Năstăsescu, A. Tudorache, and L. Dăuş. “Relative regular objects in categories”. In: Appl. Categ. Structures 14.5-6 (2006), pp. 567–577. arXiv: math/0605606. url: http://dx.doi.org/10.1007/s10485-006-9048-1.

[Gar07]

Grigory Garkusha. “Homotopy theory of associative rings”. In: Adv. Math. 213.2 (2007), pp. 553–599. arXiv: math/0608482. url: http://dx.doi.org/10.1016/j.aim.2006.12.013.

[Ger71]

S. M. Gersten. “Homotopy theory of rings”. In: J. Algebra 19 (1971), pp. 396–415. url: https://doi.org/10.1016/0021-8693(71)90098-6.

[Goo91]

K. R. Goodearl. von Neumann regular rings. Second. Robert E. Krieger Publishing Co., Inc., Malabar, FL, 1991, pp. xviii+412. isbn: 0-89464-632-X.

[HLP07]

Mark Hovey, Keir Lockridge, and Gena Puninski. “The generating hypothesis in the derived category of a ring”. In: Math. Z. 256.4 (2007), pp. 789–800. arXiv: math/0610201. url: https://doi.org/10.1007/s00209-007-0103-x.

[Hov01]

Mark Hovey. “Classifying subcategories of modules”. In: Trans. Amer. Math. Soc. 353.8 (2001), 3181–3191 (electronic). url: http://dx.doi.org/10.1090/S0002-9947-01-02747-7.

[Kat]

Yuki Kato. Non-unital algebraic \(K\)-theory and almost mathematics. arXiv: 2207.08378.

[Loc07]

Keir H. Lockridge. “The generating hypothesis in the derived category of \(R\)-modules”. In: J. Pure Appl. Algebra 208.2 (2007), pp. 485–495. arXiv: math/0511534. url: https://doi.org/10.1016/j.jpaa.2006.01.018.

[Mah11]

Snigdhayan Mahanta. “Higher nonunital Quillen \(K'\)-theory, \(KK\)-dualities and applications to topological \(\mathbb {T}\)-dualities”. In: J. Geom. Phys. 61.5 (2011), pp. 875–889. arXiv: 1503.06404. url: https://doi.org/10.1016/j.geomphys.2010.12.011.

[Qui]

Daniel Quillen. Module theory over nonunital rings. url: https://ncatlab.org/nlab/files/QuillenModulesOverRngs.pdf.

[Qui96]

Daniel Quillen. “\(K_0\) for nonunital rings and Morita invariance”. In: J. Reine Angew. Math. 472 (1996), pp. 197–217. url: http://dx.doi.org/10.1515/crll.1996.472.197.