位相空間の圏での, fibration や cofibration と似た性質を持った写像 (morphism) は, より一般的な圏で存在する。
最初にこのことを明文化したのは Quillen [Qui67] であり, closed model categoryという概念を定義した。
Quillen の “Homotopical Algebra” は \(\mathrm {\TeX }\)romancer というグループにより, \(\mathrm {\LaTeX }\) で打ち直されたものが, ここから
download できるようになった。
現在では, ホモトピー論の研究者の間では, 単に model category と呼ばれる場合が多いが, closed model category
と呼ぶ人もいる。 現在広く使われている定義では, Quillen が closed と呼んだ条件は model category の定義に含まれているので,
ここでは, 単に model category と呼ぶことにしよう。
90年代以降, model category の理論について, 飛躍的に理解が進んだ。 Model category については, まず Dwyer
と Spalinski の解説 [DS95] を 読んでから, Hovey の本 [Hov99] を読むのがよい。 Hovey の [Hov13] には
Quillen 以前のホモトピー論から, Quillen が model category の定義を導入するに至った経緯などについて書いてあるので,
まずは, この Hovey の解説を読むのも良いと思う。 最近のものでは, Balchin の handbook [Bal21] もある。 Bousfield
localization のような, より進んだ話題については, Hirschhorn の本 [Hir03] が便利である。
Model category は, トポロジー以外にも幅広い応用があることが知られている。 例えば André-Quillen
cohomology のように, ホモロジー代数の一般化を行いたいときに有用である。
ホモロジー代数との関連では, まず chain complex の圏の上の model structure, そして, より一般に Abel 圏や
exact category での model structure を理解すべきである。
Lurie が [Lur09] の Appendix 2 の最初で言っているように, simplicial model category は, 高次の圏,
より正確には, \((\infty ,1)\)-category を構成するために使える。 Palu [Pal] は triangulated category の rigid
object の module の category を元の triangulated category の localization として記述する
Buan と Marsh の結果 [BM13] を一般化するためには, その triangulated category 上に model
category (に近いもの) の構造を導入するのがよい, と言っている。 Manetti と Meazzini [MM19] は scheme
やその間の morphism の deformation theory への応用を考えている。 より実用的 (?) な応用としては,
計算機科学の並列処理の理論への応用がある。 また数理論理学との関連について [AW09] で指摘されている。このような例を色々見てみるとよい,
と思う。
もっとも, これらの「応用」は理論的なものであり, 具体的な問題を解くためにはモデル構造は不要であるような気がする。Barthel と
May と Riehl [BMR] は, 具体的な計算への応用があると言っているが。
Model structure を部分的にしか持たない圏を扱う必要が出てくる場合もある。 そのようなものも何種類も定義されている。
また model category 以外にも「ホモトピー圏」を作ることができる構造は色々ある。 上の link 先に挙げたように, 基本的には
weak equivalence の成す部分圏がある程度良い条件をみたしていれば, weak equivalence を形式的に invert して
「ホモトピー圏」が作れる。ただ, model category の構造を導入する際は, 「ホモトピー圏」を作ることが目標ではない。どちらかというと,
「ホモトピー圏」の元になっている圏を考え, その圏で位相空間に対する操作と同様の操作をしたいときに model structure を入れる,
と思ってよいだろう。
逆に, 位相空間に対する操作の類似が重要でなければ, dg category による enhancement や \((\infty ,1)\)-category
の方が適している場合もある。
References
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Daniel G. Quillen. Homotopical algebra.
Lecture Notes in Mathematics, No. 43. Berlin: Springer-Verlag, 1967,
iv 156 pp. (not consecutively paged).
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