Poincaré が “Analysis Situs” で考えたのが Euclid空間の 部分多様体であったように,
Euclid空間 はトポロジーで最も基本的な空間である。 その性質をよく理解することはトポロジーの基本中の基本である。 そして,
Euclid空間の1点コンパクト化である球面も非常に重要である。
残念ながら, Euclid空間の基本的な性質は, 普通の代数的トポロジーの本では扱われていない場合がほとんどである。
より幾何学的な問題を扱った本を見るべきである。 例えば, Rolfsen の結び目の本 [Rol90] にはかなり詳しく書いてある。
Schönfliesの 定理は Hopf archive にある Siebenmann の解説が, 歴史的なことも含めて詳しい。 また Rushing の本
[Rus73] は高次元の場合や “wild” な球面の埋め込みなどについても詳しく述べてある。
まずはJordanの曲線定理を知っておくべきだろうか。
-
Jordanの曲線定理。 つまり, \(C\subset \R ^2\) が単純閉曲線 (の像) ならば, 補集合 \(\R ^2\setminus C\) は2つの弧状連結成分から成り, 一方は有界
でもう一方は有界ではない。また \(C\) はその境界になっている。
Math Overflow のこの質問に対する解答によると, 証明は, Maehara の [Mae84] が短かくてよいようである。 この
Maehara の論文は, Ranicki の Jordan curve theorem に関するページから download できる。他にも,
Jordan curve theorem に関する論文を色々 download できる。
似たようなことは色々ある。
- \(L \subset \R ^2\) が \(\R \) と同相な閉集合ならば \(\R ^2-L\) は2つの弧状連結成分から成り, \(L\) はその境界である。
- \(2\)次元球面 \(S^2\) でも Jordan の曲線定理が成り立つ。 またそれは平面の Jordan 曲線定理と同値である。
- Jordan-Brouwer Separation Theorem。つまり \(\Sigma \) が \(S^n\) の中に埋め込まれた \((n-1)\)次元球面ならば, 補集合 \(S^n\setminus \Sigma \)
は2つの連結成分か ら成り, \(\Sigma \) はその共通の境界である。
-
Schönflies の定理。 つまり, \(C\) が \(S^2\) に埋め込まれた \(S^1\) ならば, 補集合 \(S^2\setminus C\) の2つの連結成分は, 共に \(D^2\) の内部と同相である。
- \(3\)次元以上では, Schönflies の定理は成り立たない。例えば Alexander horned sphere は \(S^3\) に埋め込まれた
\(S^2\) であるが, その補集合の一方は単連結ではない。
- 任意の埋め込み \[ \gamma : [a,b] \hookrightarrow \R ^2 \] は埋め込み \[ \tilde{\gamma } : (a-\varepsilon ,b+\varepsilon ) \longrightarrow \R ^2 \] に拡張できる。
- \(K \subset S^n\) が \(S^{n-2}\) と同相な部分空間ならば, 補集合 \(S^n\setminus K\) は弧状連結である。
- \(S^p\) と \(S^q\) の join, \(S^p\ast S^q\), は \(S^{p+q+1}\) に同相である。
Schönflies の定理の高次元での類似が成り立つためには, 条件が必要である。Rushing の本 [Rus73] の §1.8
を見るとよい。
Euclid空間の部分多様体として, 曲線や曲面に慣れておくことは重要である。 \(\R ^3\) や \(S^3\) の中の閉曲線を結び目 (knot)
と呼ぶ。
Euclid空間の部分空間で様々な場面で重要な役割を 果すものとして, configuration space
は知っておくべきだろう。特に代数的トポロジーを勉強する上では。
Euclid空間はベクトル空間の構造を持つが, 部分ベクトル空間を平行移動して できるアフィン部分空間は, 基本的である。単体やより
一般に多面体を構成したりするのに用いる。もちろん, 多面体もEuclid空間の 重要な部分空間である。
凸多面体は凸集合の代表的な例であるが, より一般の凸集合も様々な場面で登場する。
Skopenkov の [Sko] によると, Euclid空間の良い部分集合として, basic subset という概念があるようである。
Euclid空間, 特に平面でのトポロジーの入門として winding number がよく使われる。 例えば, Fulton の本 [Ful95]
など。 学部の授業で複素関数論を勉強した後に勉強するには丁度良い題材だと思う。 \(\R ^2\) の基本的な性質を理解するためにも。
References
-
[Bro60]
-
Morton Brown. “A proof of the generalized Schoenflies theorem”. In:
Bull. Amer. Math. Soc. 66 (1960), pp. 74–76.
-
[Ful95]
-
William Fulton. Algebraic topology. Vol. 153. Graduate Texts in
Mathematics. New York: Springer-Verlag, 1995, p. xviii 430. isbn:
0-387-94326-9; 0-387-94327-7.
-
[Mae84]
-
Ryuji Maehara. “The Jordan curve theorem via the Brouwer fixed
point theorem”. In: Amer. Math. Monthly 91.10 (1984), pp. 641–643.
url: http://dx.doi.org/10.2307/2323369.
-
[Maz59]
-
Barry Mazur. “On embeddings of spheres”. In: Bull. Amer. Math. Soc.
65 (1959), pp. 59–65.
-
[Rol90]
-
Dale Rolfsen. Knots and links. Vol. 7. Mathematics Lecture Series.
Corrected reprint of the 1976 original. Houston, TX: Publish or Perish
Inc., 1990, pp. xiv+439. isbn: 0-914098-16-0.
-
[Rus73]
-
T. Benny Rushing. Topological embeddings. Pure and Applied
Mathematics, Vol. 52. New York: Academic Press, 1973, pp. xiii+316.
-
[Sko]
-
A. Skopenkov. Basic embeddings and Hilbert’s 13th problem. arXiv:
1003.1586.
|