Steenrod の本 [Ste51] は, 古い本ではあるが, 今だにファイバー束については最も有名な本である。 私自身も学生のときは,
この本でファイバー束について学んだ。 Steenrod は, ファイバー束を 可微分多様体の微分構造とよく似た複雑なデータの集まりとして定義した。
その定義は, 微分幾何学や 物理で使うためには適しているかもしれないが, 代数的トポロジーにとっては余分な情報が多く含まれたものである。
Husemoller の本 [Hus94] の方がよりトポロジー的かつ現代的で読み易い。
日本語で読めるものとしては, Steenrod の本の日本語版もあるが, 私が書いたもの [玉20] もある。ただし,
既に間違いがいくつか見付かっている。 出版直前に演習問題解答例を書いていたときに見付けたものについては, 出版社のサイトから 正誤表を
download できる。 その後, 東京理科大の佐藤隆夫氏から, 詳しい正誤表を送っていただいたが, それについては, とりあえず英語版
[Tam21] の方に反映させた。日本語版については, 改訂する機会があったら, その際に修正する予定つもりでいる。 その英語版での
Theorem 3.4.9 など locally compact Hausdorff を仮定しているいくつかの命題について, Hausdorff
の条件が不要であることを, Loring Tu 氏から指摘していただいた。
私の本では, 森北出版の方からの提案で, 最初に toy model として 被覆空間について書いたが, 被覆空間の基本的な性質を知っていると,
ファイバー束を理解し易いと思う。
ファイバー束を勉強する際には, 以下の定義と事実を上記の本から探し出すことから始めると効率的だろう。
- 局所自明なファイバー束 (fiber bundle) の定義
- 座標変換 (coordinate transformation) あるいは transition function の定義
- 構造群 (structure group) の定義
-
主束 (principal bundle) の定義
- 切断 (cross sectionまたはsection) の定義
- 切断を持つ主束は自明である
- 主束に同伴 (associate) したファイバー束の定義
主\(G\)束は, 局所自明化を用いずに群の作用のみを用いて定義することができる。 これについては, Baum, Hajac, Matthes,
Szymanski の [Bau+] を見るとよい。このような, 群作用のみで定義された主\(G\)束は, \(G\)-torsor と呼ばれる。
もちろん, 局所自明化も有用である。構造群\(G\)を持つ fiber bundle \(p : E \to B\) の局所自明化 \[ \{\varphi _{\alpha } : p^{-1}(U_{\alpha }) \longrightarrow U_{\alpha }\times F\}_{\alpha \in A} \] が与えられると, 座標変換 \[ g_{\alpha \beta } : U_{\alpha }\cap U_{\beta } \longrightarrow G \] が決まる。\(\{g_{\alpha \beta }\}_{\alpha ,\beta \in A}\) が Čech
\(1\)-cocycle になることはすぐ分かる。逆に Čech \(1\)-cocycle が与えられると, それを座標変換のデータとするファイバー束を再構成できる。
この対応は, 様々な幾何学的応用で重要である。例えば gerbe など。
- 主\(G\)束 \(p : E \to B\) の座標変換のデータと \(G\) に値を持つ Čech 1-cocycle の間の対応
2つのファイバー束を比較するときには, その間の写像を考える必要がある。 基本的には, 底空間と全空間の間の写像の組で定義するが,
要求する条件には, いくつかの段階がある。 [Tam21] では, fiber-preserving map と bundle map
を用いた。
- fiber-preserving map の定義
- bundle map の定義
- 2つのファイバー束が同型であることの定義
- ファイバー束の連続写像による 引き戻し (pull-back) がファイバー束になる
-
ホモトピックな2つの連続写像によるファイバー束の引き戻しは, 同値である
- パラコンパクト Hausdorff 空間上のファイバー束は, 被覆ホモトピー性質を持つ
- パラコンパクト Hausdorff 空間 \(X\) 上の主\(G\)束の同値類は \(X\) から \(BG\) への連続写像のホモトピー類と一対一に対応する
- つまり \(X\) 上の 主\(G\)束の同型類の集合, \(P_G(X)\), はパラコンパクト Hausdorff 空間と連続写像の homotopy category
から集合の圏への, \(BG\) という空間で表現される 表 現可能関手になる
この意味で, \(BG\) は 主\(G\)束の同型類を分類するので, \(G\) の 分類空間と呼ばれる。Steenrod による \(BG\) の構成 ([Ste51]) は,
その後様々に一般化, そして精密化されている。 詳しくは 分類空間のページ を参照のこと。
上のパラコンパクト Hausdorff という条件はもう少し弱くすることができる。 例えば, Dold の [Dol63]など。 Wirth と
Stasheff の [WS06] も見るとよい。
ファイバー束のような複雑なデータを扱う際には, 具体例をいくつか知っているとよい。
- Möbius の帯と Klein の壷は, \(S^1\) 上のファイバー束
- Hopf束 \[ \begin {split} 2 : S^1 & \longrightarrow S^1 \\ \eta : S^3 & \longrightarrow S^2 \\ \nu : S^7 & \longrightarrow S^4 \\ \sigma : S^{15} & \longrightarrow S^8 \end {split} \] 最後のものを除いてこれらは主束である。 これらの写像は Hopf map と呼ばれ,
球面のホモトピー群で最も基本的な元である。
- 多くの場合, 位相群のその部分群による商群への射影 \[ G \longrightarrow G/H \] は主\(H\)束になる。
より一般に, 位相空間 \(X\) への位相群 \(G\) の作用が与えられているとき, 射影 \(X \to X/G\) が主\(G\)束になるのはどんな場合だろう? これについては, Baum,
Hajac, Matthes, Szymanski の [Bau+] の§1, 特に§1.5が詳しい。
- Lie群 \(G\) が completely regular space \(X\) に free に作用するなら, projection \(X \to X/G\) は principal
\(G\)-bundle になる。 [Pal61]
M. Davis は, [Dav78] において, \(X\) が 滑らかな多様体で \(G\) が compact Lie 群の場合に, 射影が
“stratified fiber bundle”, つまり適当に分割す ( stratification を入れ) れば, それぞれの stratum
上でファイバー束になることを示している。
ベクトル束も重要なファイバー束の一種である。その代表的な例は, 可微分多様体の tangent bundle であるが,
可微分多様体ではないものに対しても tangent bundle の類似を定義するために, Milnor [Mil64] は microbundle
という概念を定義した。 PL 多様体に対しては, Rourke と Sanderson [RS68a; RS68b; RS68c] による block
bundle の概念がある。
ファイバーが (topological) associative algebra の構造を持つものが Ludewig ら [KLWa; Lud]
などで使われている。そこでは, algebra bundle を object とし, bimodule bundle を morphism とし,
bimodule bundle の morphism を \(2\)-morphism とした bicategory が \(2\)-vector bundle
のモデルとして使われている。また [KLWb] では, von Neumann algebra を fiber とする bundle
が登場する。
- algebra bundle
- bimodule bundle
ホモトピー論の視点からは, fiber bundle の 一般化として fibration が重要であるため, [玉20] の後半では, fibration
についてまとめた。
ファイバー束は, 微分幾何で主要な道具として使われてきた。 古典的な接続や曲率といった概念はファイバー束の言葉で定義し直されている。
構造群以外の群の作用を考えることもできる。 Equivariant fiber bundle と呼ぶべきものである。 基本的に,
equivariant でない bundle の理論と平行に議論できる。 例えば, principal bundle の分類定理が成り立つ。tom Dieck
[Die69] や Lashof [Las82] が調べている。 Lück と Uribe の [LU14] に挙げられているものでは, 他に
Hambletonと Hausmann の [HH03], Lashof や May らの [LMS83; LM86; May90],
Murayama と Shimakawa の [MS95], tom Dieck の [Die87] が挙げられている。 Lück と Uribe は,
それらの一般化を定義し, その分類定理を証明している。 より一般的な枠組みで考えたのとして Sati と Schreiber の [SS]
がある。
- equivariant fiber bundle
- equivariant principal bundle の分類定理
非可換幾何学の視点から, quantum principal bundle などの非可換ファイバー束も色々考えられている。
安定ホモトピー論では, spectrum を fiber とする (位相空間上の) bundle も考えられている。 parametrized
spectrum の一種として定義される。
Ralph Cohen と Jones の [CJ17] では, [And+; Lin16] などが参照されている。
高次の bundle も, gerbe など色々考えられている。文脈によって, その「高次」の意味が様々であるが。
References
-
[And+]
-
Matthew Ando, Andrew J. Blumberg, David J. Gepner, Michael J.
Hopkins, and Charles Rezk. Units of ring spectra and Thom spectra.
arXiv: 0810.4535.
-
[Bau+]
-
Paul F. Baum, Piotr M. Hajac, Rainer Matthes, and Wojciech
Szymanski. Noncommutative Geometry Approach to Principal and
Associated Bundles. arXiv: math/0701033.
-
[CJ17]
-
Ralph L. Cohen and John D. S. Jones. “Homotopy automorphisms
of \(R\)-module bundles, and the \(K\)-theory of string topology”. In: Bol. Soc.
Mat. Mex. (3) 23.1 (2017), pp. 163–172. arXiv: 1310.4797. url:
https://doi.org/10.1007/s40590-016-0136-4.
-
[Dav78]
-
Michael Davis. “Smooth \(G\)-manifolds as collections of fiber
bundles”. In: Pacific J. Math. 77.2 (1978), pp. 315–363. url:
http://projecteuclid.org/euclid.pjm/1102806454.
-
[Die69]
-
Tammo tom Dieck. “Faserbündel mit
Gruppenoperation”. In: Arch. Math. (Basel) 20 (1969), pp. 136–143.
url: https://doi.org/10.1007/BF01899003.
-
[Die87]
-
Tammo tom Dieck. Transformation
groups. Vol. 8. de Gruyter Studies in Mathematics. Berlin: Walter
de Gruyter & Co., 1987, pp. x+312. isbn: 3-11-009745-1. url:
http://dx.doi.org/10.1515/9783110858372.312.
-
[Dol63]
-
Albrecht Dold. “Partitions of unity in the
theory of fibrations”. In: Ann. of Math. (2) 78 (1963), pp. 223–255.
url: https://doi.org/10.2307/1970341.
-
[HH03]
-
Ian Hambleton and Jean-Claude Hausmann. “Equivariant principal
bundles over spheres and cohomogeneity one manifolds”. In:
Proc. London Math. Soc. (3) 86.1 (2003), pp. 250–272. url:
http://dx.doi.org/10.1112/S0024611502013722.
-
[Hus94]
-
Dale Husemoller. Fibre bundles. Third. Vol. 20. Graduate Texts in
Mathematics.
Springer-Verlag, New York, 1994, pp. xx+353. isbn: 0-387-94087-1.
url: http://dx.doi.org/10.1007/978-1-4757-2261-1.
-
[KLWa]
-
Peter Kristel, Matthias Ludewig, and Konrad Waldorf. The insidious
bicategory of algebra bundles. arXiv: 2204.03900.
-
[KLWb]
-
Peter Kristel, Matthias Ludewig, and Konrad Waldorf. The stringor
bundle. arXiv: 2206.09797.
-
[Las82]
-
R. K. Lashof. “Equivariant bundles”. In: Illinois J. Math. 26.2 (1982),
pp. 257–271.
-
[Lin16]
-
John A. Lind. “Bundles of spectra and algebraic \(K\)-theory”. In:
Pacific J. Math. 285.2 (2016), pp. 427–452. arXiv: 1304.5676. url:
https://doi.org/10.2140/pjm.2016.285.427.
-
[LM86]
-
R. K. Lashof and J. P. May. “Generalized equivariant bundles”. In:
Bull. Soc. Math. Belg. Sér. A 38 (1986), 265–271 (1987).
-
[LMS83]
-
R. K. Lashof, J. P. May, and G. B. Segal. “Equivariant bundles
with abelian structural group”. In: Proceedings of the Northwestern
Homotopy Theory Conference (Evanston, Ill., 1982). Vol. 19.
Contemp.
Math. Providence, RI: Amer. Math. Soc., 1983, pp. 167–176. url:
http://dx.doi.org/10.1090/conm/019/711050.
-
[LU14]
-
Wolfgang Lück and
Bernardo Uribe. “Equivariant principal bundles and their classifying
spaces”. In: Algebr. Geom. Topol. 14.4 (2014), pp. 1925–1995. arXiv:
1304.4862. url: http://dx.doi.org/10.2140/agt.2014.14.1925.
-
[Lud]
-
Matthias Ludewig. The spinor bundle on loop space. arXiv:
2305.12521.
-
[May90]
-
J. P. May. “Some remarks on equivariant bundles and classifying
spaces”. In: Astérisque 191 (1990). International Conference on
Homotopy Theory (Marseille-Luminy, 1988), pp. 7, 239–253.
-
[Mil64]
-
J.
Milnor. “Microbundles. I”. In: Topology 3.suppl. 1 (1964), pp. 53–80.
url: https://doi.org/10.1016/0040-9383(64)90005-9.
-
[MS95]
-
Mitutaka Murayama and Kazuhisa Shimakawa. “Universal
equivariant bundles”. In: Proc. Amer. Math. Soc. 123.4 (1995),
pp. 1289–1295. url: http://dx.doi.org/10.2307/2160733.
-
[Pal61]
-
Richard S. Palais. “On the existence of slices for actions of
non-compact Lie groups”. In: Ann. of Math. (2) 73 (1961),
pp. 295–323.
-
[RS68a]
-
C. P. Rourke and B. J. Sanderson.
“Block bundles. I”. In: Ann. of Math. (2) 87 (1968), pp. 1–28. url:
https://doi.org/10.2307/1970591.
-
[RS68b]
-
C. P. Rourke and B. J. Sanderson. “Block bundles. II.
Transversality”. In: Ann. of Math. (2) 87 (1968), pp. 256–278. url:
https://doi.org/10.2307/1970598.
-
[RS68c]
-
C. P. Rourke and B. J. Sanderson. “Block bundles. III. Homotopy
theory”. In: Ann. of Math. (2) 87 (1968), pp. 431–483. url:
https://doi.org/10.2307/1970714.
-
[SS]
-
Hisham Sati and Urs Schreiber. Equivariant principal \(\infty \)-bundles.
arXiv: 2112.13654.
-
[Ste51]
-
Norman Steenrod. The Topology of Fibre Bundles. Princeton
Mathematical Series, vol. 14. Princeton, N. J.: Princeton University
Press, 1951, pp. viii+224.
-
[Tam21]
-
Dai Tamaki. Fiber bundles and homotopy. World Scientific Publishing
Co. Pte. Ltd., Hackensack, NJ, [2021] ©2021, pp. xii+324.
isbn: 978-981-123-799-7; 978-981-123-809-3; 978-981-123-810-9. url:
https://doi.org/10.1142/12308.
-
[WS06]
-
James Wirth and Jim Stasheff. “Homotopy transition cocycles”.
In: J. Homotopy Relat. Struct. 1.1 (2006), pp. 273–283. arXiv:
math/0609220.
-
[玉20]
-
玉木大. ファイバー束とホモトピー. 森北出版, 2020, p. 320. isbn: 978-4-627-05461-5.
|