弱ホモトピー同値と関連した概念

ホモトピー同値より弱い関係であるが, 代数的トポロジーでよく使われる関係として弱ホモトピー同値がある。 全ての次元の ホモトピー群で同型を誘導する写像を, 弱ホモトピー同値写像 (weak homotopy equivalence) というが, そのような写像が存在するという関係を同値関係に拡張してできた関係が, 弱ホモトピー同値である。

  • weak homotopy equivalence
  • weakly homotopy equivalent

Whitehead の本 [Whi78] の様に, 任意の有限 CW複体 \(K\) に対し, ホモトピー集合に誘導する写像 \(f_* : [K,X]\to [K,Y]\) が全単射になることを定義とする流儀もある。

Dugger と Isaksen の [DI04] の Introduction は, relative homotopy lifting property による弱ホモトピー同値写像の特徴付けから始まっている。 Jeff Smith のアイデアによるらしい。

  • relative homotopy lifting property

Dugger と Isaksen の目的は, Jardine [Jar87] による site 上の simplicial presheaf の圏の model structurehypercover で表すことであるが。

\(n-1\) 次元以下のホモトピー群で同型写像を誘導し, \(n\)次元のホモトピー群で全射になる場合を, \(n\) 同値写像 (\(n\)-equivalence) という。

  • \(n\)-equivalence

つまり,

\(\infty \)同値 \(=\) 弱ホモトピー同値

ということである。

\(n\)同値に関しては, May の [May90] は重要な文献である。 様々な有用な性質が書いてある。 この May の論文のタイトルにもあるように, 弱ホモトピー同値と quasifibration は密接に関係している。

この May の論文の Theorem 1.2 の証明には間違いがあり, Witbooi が [Wit99] で正しい証明を与えている。

この May の論文では, 空間対の弱ホモトピー同値を \(\infty \)同値として定義してあるが, これは quasifibration に用いるための定義である。

Quasifibration に関する重要な定理として, Dold-Thom criterion があるが, この May の仕事を発展させて, Dold-Thom criterion の \(n\)-equivalence, そして weak homotopy equivalence に拡張したものとして, Witbooi の [Wit00] がある。

気をつけなければならないのは, 空間対の弱ホモトピー同値には, もう一つの定義があることである。 \(f:(X,A)\to (Y,B)\) が弱ホモトピー同値であることを \(f:X\to Y\) と \(f|_{A}:A\to B\) が共に弱ホモトピー同値という定義である。 例えば, 同じ May の [May99] の Chapter 13, section 1 では, この定義が使われている。

後者の意味の弱ホモトピー同値は, ホモロジーの弱ホモトピー同値不変性に用いる。 例えば, Whitehead の本 [Whi78] の185ページに, Theorem 7.18 として書かれている。また184ページには, May の [May90] の意味の空間対の弱ホモトピー同値写像では, ホモロジーの同型を誘導しない例が, Example 4 として書かれている。

Eilenberg-Steenrod のホモロジーの公理では, ホモトピー公理として, ホモトピー同値が用いられているが, この定理により, 現在では弱ホモトピー同値不変性を仮定するのが普通である。 そしてその際の弱ホモトピー同値の定義は, 後者のものである。

逆に, 単連結な空間の間のホモロジーの同型を誘導する写像は, 弱ホモトピー同値写像になる。いわゆる Whitehead の定理である。 この Whitehead は J.H.C. Whitehead [Whi49] であり, [Whi78] の G.W. Whitehead とは別の人である。 区別するために, 戸田先生は, Henry Whitehead と George Whitehead と呼んでいた。

  • ホモロジー同値に関する Whitehead の定理

代数的トポロジーで, ホモトピー同値より弱ホモトピー同値が基準になっている一つの理由は, このように, 代数的な道具で証明できるのは, せいぜい弱ホモトピー同値までであることが多いからである。

この MathOverflow の質問は, Whitehead の定理のコホモロジー版がないか, というものであるが, Peter May らが回答しているように, コホモロジー版もある。

  • コホモロジー同値に関する Whitehead の定理

文献としては, May の [May83] や May と Ponto の本 [MP12] の §3.3 がある。

May の回答にもあるように, コホモロジー版の Whitehead の定理は, CW複体に対しては, Henry Whitehead の論文 [Whi49] で示されているもう一つの Whitehead の定理, つまり CW複体に対しては, 弱ホモトピー同値ならばホモトピー同値になる, という事実の Hilton-Eckmann dual と考えるのがよいようである。 ホモトピー群が \([S^{n},X]\), 整係数コホモロジーが \([X,K(\Z ,n)]\) とホモトピー集合で表され, \(S^{n}\) と Eilenberg-Mac Lane 空間 \(K(\Z ,n)\) が Hilton-Eckmann dual であるからである。

  • CW複体に対する Whitehead の定理

全ての \(n\) に対する \(v_{n}\)-periodic homotopy group の同型を誘導する写像は, 弱ホモトピー同値であるという variation が Barthel, Heuts, Meier [BHM21] により示されている。

Quillen の model category の構成要素の内の weak equivalence は, 当然 weak homotopy equivalence を一般化したものである。

  • model category での weak equivalence

もちろん, 位相空間の圏の Strøm によるモデル構造のように, weak equivalence としてホモトピー同値を選ぶ場合もあるが。

References

[BHM21]

Tobias Barthel, Gijs Heuts, and Lennart Meier. “A Whitehead theorem for periodic homotopy groups”. In: Israel J. Math. 241.1 (2021), pp. 1–16. arXiv: 1811.04030. url: https://doi.org/10.1007/s11856-021-2086-4.

[DI04]

Daniel Dugger and Daniel C. Isaksen. “Weak equivalences of simplicial presheaves”. In: Homotopy theory: relations with algebraic geometry, group cohomology, and algebraic \(K\)-theory. Vol. 346. Contemp. Math. Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2004, pp. 97–113. arXiv: math/0205025. url: https://doi.org/10.1090/conm/346/06292.

[Jar87]

J. F. Jardine. “Simplicial presheaves”. In: J. Pure Appl. Algebra 47.1 (1987), pp. 35–87. url: http://dx.doi.org/10.1016/0022-4049(87)90100-9.

[May83]

J. P. May. “The dual Whitehead theorems”. In: Topological topics. Vol. 86. London Math. Soc. Lecture Note Ser. Cambridge Univ. Press, Cambridge, 1983, pp. 46–54. url: https://doi.org/10.1017/CBO9780511600760.004.

[May90]

J. P. May. “Weak equivalences and quasifibrations”. In: Groups of self-equivalences and related topics (Montreal, PQ, 1988). Vol. 1425. Lecture Notes in Math. Berlin: Springer, 1990, pp. 91–101. url: http://dx.doi.org/10.1007/BFb0083834.

[May99]

J. P. May. A concise course in algebraic topology. Chicago Lectures in Mathematics. Chicago, IL: University of Chicago Press, 1999, pp. x+243. isbn: 0-226-51182-0.

[MP12]

J. P. May and K. Ponto. More concise algebraic topology. Chicago Lectures in Mathematics. Localization, completion, and model categories. Chicago, IL: University of Chicago Press, 2012, pp. xxviii+514. isbn: 978-0-226-51178-8; 0-226-51178-2.

[Whi49]

J. H. C. Whitehead. “Combinatorial homotopy. I”. In: Bull. Amer. Math. Soc. 55 (1949), pp. 213–245. url: https://doi.org/10.1090/S0002-9904-1949-09175-9.

[Whi78]

George W. Whitehead. Elements of homotopy theory. Vol. 61. Graduate Texts in Mathematics. New York: Springer-Verlag, 1978, p. xxi 744. isbn: 0-387-90336-4.

[Wit00]

P. J. Witbooi. “Globalizing weak homotopy equivalences”. In: Topology Appl. 100.2-3 (2000), pp. 229–240. url: https://doi.org/10.1016/S0166-8641(98)00088-1.

[Wit99]

P. J. Witbooi. “Excisive triads and double mapping cylinders”. In: Topology Appl. 95.2 (1999), pp. 169–172. url: https://doi.org/10.1016/S0166-8641(97)00281-2.