圏 (category) と関手 (functor) は数学のための言語である。 その言葉を用いることにより主張が簡潔になり, また明確になる。
特異ホモロジーは, Eilenberg と Steenrod により公理化されたが, 圏と関手の言葉を用いるとホモロジーの公理がかなり簡素化される。
そして, ホモロジー代数は, 圏と関手の言葉と共に発展した。現在では, より一般にホモトピー代数として扱うべきであるが, そのためには,
圏と関手の言葉を自由に扱うことができるようになることが必要である。 他に, 局所係数も, 圏論の言葉を用いて定義した方が分りやすい。
2019年7月10日の David Roberts による category theory mailing list での 質問から,
“category theory” という言葉が最初に使われるようになったのはいつか, という議論が行なわれている。それによると, 1960
年の Kurosh, Livshits, Shul\('\)geifer による survey [KLS60] や Rosen の論文 [Ros58]
が最も古いもののようである。
ホモロジー代数で使われる圏論は「言語としての圏論」であるが, 他にも「代数的構造としての圏」も重要である。 例えば, 群を small
category とみなすと, 自然に groupoid という一般化が得られ, またその分類空間の構成も見通しが良くなる。
様々な空間をsmall category や topological category の分類空間として構成することができるし,
またそうした方が見通しがよくなる場合も多いので, 「幾何学的対象としての圏」も重要である。
圏論については, Theory and Applications of Categoriesと言う雑誌があり, その site で,
過去に出版された圏論に関する文献の reprint も公開されている。最近は, category theory については, nLab という Wiki
が有用である。 新しい話題についても解説されているので助かる。
圏論についての, 基本的な参考文献については, 「圏と関手の基本」のページに書いた。
数学の記述言語として以外に, 現在では研究対象としても圏は基本的である。 例えば, small category は, 分類空間の構成を通して,
ホモトピー論で様々な空間の構成に用いられる。 Grothendieck topology を入れた site は代数幾何学での基本的な研究対象である。
代数幾何学や表現論では, derived category として triangulated category を作ったり, その前段階である dg
category や stable \(\infty \)-category を作って調べたりする。
最近では, category theory の様々な分野への応用も一般的になってきて, applied category theory に関する
conference も開かれるようになってきた。
References
-
[KLS60]
-
A. G. Kurosh, A. Kh. Livshits, and E. G. Shul\('\)geifer. “Foundations
of the theory of categories”. In: Russian Math. Surveys 15.6 (1960),
pp. 1–46. url:
https://doi.org/10.1070/RM1960v015n06ABEH001116.
-
[Ros58]
-
Robert Rosen. “The representation of biological systems for the
stand-point of the theory of categories”. In: Bull. Math. Biophys. 20
(1958), pp. 317–342. url: https://doi.org/10.1007/bf02477890.
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