Enriched category とは, 2つの object の間の 「morphism の集合」が, ある category の object
になっているようなものである。例えば, 局所コンパクトな位相空間と連続写像の圏では, 2つの object \(X\) と \(Y\) の間 の morphism
全体の集合 \(\mathrm {Map}(X,Y)\) に コンパクト開位相を入れることにより, 位相空間の圏で enrich された圏とみなすことができる。
そのような場合, morphism の合成を定義するためには, 「morphism の成す object」 の積が必要になるので,
「morphism の成す object」は, ある monoidal category \(\bm {V}\) の object になっている必要がある。 このとき, \(\bm {V}\) により
enrich された category という。そのような一般の enriched category についてまとめたものとしては, まず Kelly の
[Kel82] がある。他にも, Borceux の本 [Bor94] の第2巻第6章などがある。
- \(\bm {V}\)で enrich された category の間の \(\bm {V}\)-functor
- \(\bm {V}\)-functor の間の \(\bm {V}\)-natural transformation
日本語で, 「豊穣圏」と訳されているのを見かけるが, あまり良い翻訳とは思えない。「\(\bm {V}\) で enrich された」と言いたいときに 「\(\bm {V}\)
で豊穣された」と書くと, 意味が分からない。「\(\bm {V}\) で装飾された」と言った方が, 定義の意味が分り易いと思う。 では, enriched category
をどう訳すかであるが, 「装飾された圏」や「装飾付き圏」で良いと思う。
代数的な例としては, ホモロジー代数で現われる additive category や Abelian category などがある。他にも dg
category など, 現代的なホモロジー代数では, enriched category がよく使われる。 意外な方向としては, Lawvere
[Law73] による 距離空間を enriched category とみなす, というアイデアがある。
これらを調べるときには, enriched category の一般的な性質を知っていると見通しがよくなることも多い。 例えば, dg
category の category が symmetric monoidal category になるということは, 次の性質から分かる。
- symmetric monoidal category で enrich された category の category は,
symmetric monoidal category の構造を持つ。
Enriched category の Yoneda Lemma については, Hinich [Hin16] が考えている。
圏 \(C\) が自分自身で enrich されているときには, internal Hom functor が定義されていると考えることができる。そのようなものを
closed monoidal category と呼ぶ。特に, monoidal structure が直積で与えられているときには, Cartesian
closed category と呼ばれる。各 object \(x\) に対し comma category \(C\downarrow x\) が Cartesian closed であるときには,
locally Cartesian closed と呼ばれる。 Monoidal category になっていることを仮定せずに, internal Hom
functor を持つ category を定義することもできる。Eilenberg と Kelly の closed category [EK66]
である。
Enriched category での (co)limit については, Kelly の [Kel82] に既に述べられている。そこでは
indexed (co)limit と呼ばれていているが, Kelly と Schmitt の [KS05] では, weighted (co)limit
と呼ばれている。現在では, weighted (co)limit と呼ばれることの方が多いように思う。
-
indexed (co)limit あるいは weighted (co)limit
代数的トポロジーでは, 例えば, McClure と Schwänzl と Vogt の topological Hochschild
homology に関する論文 [MSV97] や Panov と Ray と Vogt の Davis-Januszkiewicz space
に関する論文 [PRV04] などで使われている。
Enriched category での Kan extension については, Kelly の本の他に Dubuc の [Dub70] と
Street の [Str74] がある。Koudenburg [Kou14] はそれらを統一するには, double category
を使うべきだと言っている。
- enriched category での Kan extension
Monoidal category には 様々な一般化が知られているので, それらを用いた enriched category
の一般化も考えられている。
ホモトピー論的な視点から category を考えるときには nerve が基本であるが, enriched category の nerve
については, Lowen と Mertens [LM] で templicial object を用いた templicial nerve を定義し,
それを用いることを提案している。
- enriched category の templicial nerve
更に, monoidal \((\infty ,1)\)-category で weakly enrich された \((\infty ,1)\)-category も考えられている。 Gepner と
Haugseng の [GH15] である。別の approach として, co-Segal enriched category という概念を導入した,
Bacard の [Bac] がある。使われているのは, 2-category と model category である。
References
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In: Category Seminar (Proc. Sem., Sydney, 1972/1973). Berlin:
Springer, 1974, 104–133. Lecture Notes in Math., Vol. 420.
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