誤解を恐れずに言えば, Hochschild homology の構成で associative ring を associative
ring spectrum に変えて得られる spectrum が topological Hochschild homologyである。
どの論文で最初に定義されたのかはっきりしないが, topological Hochschild homology が発見された経緯については,
Dundas と Goodwillie と McCarthy の本 [DGM13] の Chapter IV の冒頭に詳しく書かれている。
一般には, 1990年代初頭 (1980年代後半?) に Bökstedt により考えられたということになっているが, Basterra と
Mandell の [BM11] に書かれているように, 元々は Waldhausen によりその存在が予想されていたようである。 Dundas
と Goodwillie と McCarthy の本では, 文献として Waldhausen の [Wal79] が参照されている。
そして, その Waldhausen の論文を見ると, 元になったのは K. Dennis の 1976年1月の Evanston
での講演のようである。 ただ, Dundas と Goodwillie と McCarthy の本によると, Goodwillie は
algebraic \(K\)-theory と Hochschild homology の間に “topological Hochschild homology”
と呼ぶべきものが存在すると予想していたらしい。 その予想に合うものを定義したのが Bökstedt だったようである。
解説としては, その Dundas と Goodwillie と McCarthy の本 [DGM13] が詳しい。 より短かい解説としては,
May のlecture note [May] がある。 Richter の commutative ring spectrum の解説 [Ric22] の §6
にも簡単な解説がある。 Krause と Nikolaus の lecture note [KN] や Kaledin の monograph [Kal]
もある。 最近の話題については, Mathew の overview [Mat22] を見るとよい。
現代的には, symmetric monoidal category になっている spectrum の category で cyclic bar
construction で定義するのが普通, だと思う。
- cyclic nerve
- cyclic bar construction
他にも, Angeltveit [Ang08] による associahedra を用いた topological Hochschild
(co)homology の構成もある。 また, Nikolaus と Scholz [NS18] による構成もある。
単に topological Hochschild homology が必要なだけなら, このような構成は必要ない。 このような構成が提案されているのは,
topological Hochschild homology が topological cyclic homology の元になっているからである。
topological cyclic homology を定義するために必要な構造を持つように, 定義されているのである。
Angeltveit と Rognes は [AR05] で topological Hochschild homology の Hopf algebra
structure について議論している。Gorenstein 性については Greenlees の [Gre16] で調べられている。
この Greenlees の論文の §5 には, ring spectrum の morphism \(R\to k\) により \(k\) を \(R\)-bimodule とみたときの \(R\) の \(k\)
係数 topological Hochschild homology の計算例がまとめられている。
基本は, 体 \(k\) の topological Hochschild homology \(\mathrm {THH}(k)\) だろう。\(k=\F _{p}\) の場合, 次数 \(2\) の元 \(\sigma \) により \[ \pi _{*}(\mathrm {THH}(k)) \cong k[\sigma ] \] となる。この元を
Bökstedt periodicity element という。 Bökstedt により示されたからである。 その証明にはいくつかの方法があるが,
まずは Fonarev と Kaledin の [FK] の Introduction を読むのが良いと思う。
もっとも, spectrum は位相空間を元に定義された概念なので, 位相空間に付随する ring spectrum もいろいろある。例えば,
有限CW複体 \(X\) の Spanier-Whitehead dual \(D(X)\) については, Malkiewich [Mal17] がその topological
Hochschild homology を調べている。
Connective complex \(K\)-theory を素数 \(p\) でlocalize したときの Adams summand の場合,
McClure と Staffeldt [MS93] により決定されている。彼等は periodic な Adams summand
の場合も決定している。
Adams summand ではない, connective complex \(K\)-theory spectrum については, Ausoni が
[Aus05] で調べているが, mod \((p,v_{1})\) での homotopy 群を決定しただけである。
Periodic complex \(K\)-theory spectrum については, Stonek [Sto20] が調べている。
Ring spectrum の many-objectification である spectral category への拡張は, Dundas と
McCarthy [DM96] により得られた。Blumberg と Mandell の [BM12] も見るとよい。
- spectral category の topological Hochschild homology
Brun と Carlsson と Dundas [BCD10] によると, ring spectrum \(A\) が commutative な場合,
topological Hochschild homology は functor \[ \Lambda (A) : \category {Top} \longrightarrow \category {Spectra} \] に拡張され, \(S^1\)の場合が topological Hochschild
homology になる \[ \Lambda _{S^1}(A) \simeq \mathrm {THH}(A) \] らしい。その元になっているのは, commutative algebra の Hochschild complex の場合の
Loday の結果 [Lod89] に基づいた, 所謂 higher order Hochschild complex であるが。Ring spectrum
の場合に構成したのは, Brun と Carlsson と Dundas [BCD10] のようである。 そして, \(S^n\) を入れた場合のものを higher
topological Hochschild homology という。Schlichtkrull [Sch11] が Thom spectrum
の場合を調べている。
McClure と Schwänzl と Vogt [MSV97] による \(\mathrm {THH}(A)\simeq A\otimes S^1\) という記述もある。
Brun と Fiedorowicz と Vogt は [BFV07] で \(E_n\)-ring spectrum の topological Hochschild
homology が \(E_{n-1}\)-ring spectrum の構造を持つことを示している。よって, \(E_n\)-ring spectrum に対しては, topological
Hochschild homology を\(n\)回繰り返して適用することができる。ただし, Brun と Fiedorowicz と Vogt の方法では,
topological Hochschild homology を繰り返すためには, そのつど同値な spectrum で取り替えないといけないが,
Basterra と Mandell [BM11] はその操作を不要にする構成を考えている。
Topological Hochschild homology と Thom spectrum との関係が, Blumberg と Ralph
Cohen と Schilichtkrull [BCS10] により調べられている。その応用として, \(\mathrm {ko}\) や \(\mathrm {ku}\) が Thom spectrum
ではないことを証明したのが Angeltveit と Hill と Lawson の [AHL09] である。また Basu [Bas17] は, Ando
らの一般化された Thom spectrum [And+] の topological Hochschild homology が Thom
spectrum として表されることを示している。
Blumberg と Mandell [BM20] は, topological Hochschild homology を simplicial
Waldhausen category に拡張している。その目的は, algebraic \(K\)-theory の持つ localization などの性質と
topological Hochschild homology の性質を比較するためである。彼らは, quasicategory を algebraic
\(K\)-theory と topological Hochschild homology の共通の input として使うことも考えているようである。
この algebraic \(K\)-theory と (topological) Hochschild homology の関係は, algebraic \(K\)-theory
から topological Hochschild homology への, 所謂, trace map により与えられる。これは topological
cyclic homology を factor し, それにより algebraic \(K\)-theory のことがよく分かるようである。 そして,
topological cyclic homology の構成のためには, topological Hochschild homology 上に
cyclotomic structure という構造が必要になる。
この辺のことについては, Angeltveit らの [Ang+18]の Introduction に詳しく書かれている。また,
これらに関することをまとめた本が Dundas と Goodwillie と McCarthy の [DGM13]である。
最近の話題についての overview である Mathew の [Mat22] の主題は, Bhatt, Morrow, Scholze
[BMS19] による motivic filtration である。
一般化としては, Rognesら [Rog09; RSS15] の logarithmic topological Hochschild homology
もある。
- logarithmic topological Hochschild homology
Kato の logarithmic geometry [Kat89] とホモトピー論を関係付けようというものらしい。 Pre-log ring
spectrum という commutative symmetric spectrum に情報を付加したものに対して定義される。 Sagave と
Schlichtkrull の [RSS18] では, topological \(K\)-theory spectrum の場合が調べられている。
“Real”版については, Hesselholt と Madsen の “real algebraic \(K\)-theory” に書いてある。 この ページから
downloadできる。 Anti-involution を持つ環や ring spectrum \(R\) から, \(O(2)\)-equivariant spectrum \(\mathrm {THR}(R)\)
を作る構成である。 包含 \(S^{1}=\mathrm {SO}(2)\subset O(2)\) により得られる \(S^{1}\)-spectrum が \(\mathrm {THH}(R)\) になる。
- real topological Hochschild homology
定義は, Dotto の thesis [Dot]や Høgenhaven の論文 [Høgb; Høga] にも書かれている。 Dotto ら
[Dot+21] は, より近代的な構成を与えている。 そこでは, \(\mathrm {THR}(\F _{p})\) や \(\mathrm {THR}(\Z )[\frac {1}{2}]\) が決定されている。
Hochschild homology の定義で, algebra を coalgebra に変え, bar construction を cobar
construction に変えたものとして, Cartier homology あるいは coHochschild homology
と呼ばれるものがある。 その topological version もある。Bohmann ら [Boh+18] によると, Hess と Shipley
により導入されたらしい。その論文は, [HS21] のようである。
- topological coHochschild homology
Bayındır と Péroux [BP] はその構成を \((\infty ,1)\)-category に一般化している。
変種としては, Angeltveit ら [Ang+18] による twisted topological Hochschild homology
というものもある。
- twisted topological Hochschild homology
Adamyk ら [Ada+22] がその計算のための道具を考えている。
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