高次の圏

Topological quantum field theory などのおかげで, 高次のもかなり一般的になってきた。 The String Coffee Table から派生して, The \(n\)-Category Café という group blog ができている。また nLabというWiki もできていて, 非常に活発である。 最近では, Lurie が Kerodon という project を始めた。Stacks project で行なわれていることを, Lurie の仕事に対して行なうのが目的らしい。 Stacks project で使われている Gerby というシステムを使っている。 まだ情報は少ないが, これからどんどん増えていくだろう。

\(n\)-Category Café に出た 記事の一つでは, \(n\)-category について以下の問題 (予想) が挙げられている。

Cobordism hypothesis と extended topological quantum field theory について は, Hopkins と Lurie [Lur09b] により最近大きく進歩したようである。 これについては, Schommer-Pries の解説 [Sch14] を読むとよい。

\(n\)-category の解説としては, まず John Baez によるもの [Bae97] がある。 上記の Schommer-Pries の解説も Baez らに従ったもので, 前半は homotopy hypothesis, stabilization hypothesis, 特に cobordism hypothesis を中心に書かれている。その Baezと May が編集した “Towards higher categories” という本 [BM10] (論文集) もある。 そこに収録されている論文は全て nLab のページから download できる。これは, MathOverflowのこの質問 に対する May の回答で知った。

Ronald Brown の website には, “higher dimensional algebra” に関する情報がある。 本もいくつか出てきた。Lurie の higher topos theory に関する本 [Lur09a]も高次の圏の解説を含んでいる。Simpson の本 [Sim12] のアプローチは, Lurie の本に近い。 出版されたものから part V が抜けたものであるが, その arXiv 版 [Simc] もある。 Baez と Shulman の解説 [BS10] は, コホモロジーなどの代数的トポロジーの道具を \(n\)-category の視点から見ようというものである。Baez と Lauda の [BL11] は, 数理物理で高次の圏の概念がどのように登場したかを, 年代順に解説してあり面白い。 Haugseng の [Hau] は Encyclopedia of Mathematical Physics のために書かれたものであるが, 物理のことは特に書かれていない。 \(n\)-category のアイデアから \((\infty ,1)\)-category, そして \((\infty ,n)\)-category まで解説してある。 Eugenia Cheng の web site から download できる Cheng と Lauda による guide book には, 様々な \(n\)-category の定義の比較がある。 そう, 一口に高次の圏と言っても様々な定義があるのである。

まずは, \((n-1)\)-category で enrichされた category として帰納的に定義されるものがある。正確には strict \(n\)-category と呼ばれるものである。この意味の \(n\)-category は, \((n-1)\)-category の “categorification” とみなすこともできる。

  • strict \(n\)-category の定義

この意味の \(n\)-category は, 代数的トポロジーを少しでも齧ったことのある人なら簡単に理解できるだろう。 位相空間 (object \(=\) \(0\)-morphism) と連続写像 (morphism \(=\) \(1\)-morphism) とホモトピー(\(2\)-morphism)の成すものが典型的な \(2\)-category の例である。 ただしホモトピーはパラメーターの長さが\(1\)とは限らないもので, ホモトピーの結合は長さを保つ結合である。つまり Moore loop space の類似である。

Baezの解説にも書かれているように, この strict \(n\)-category の条件はちょっときつすぎる。実際の問題に現われるのは, もっと弱い意味の higher category なのである。 ところが問題は, strict \(n\)-category の条件をどのように弱めるかについて, 様々な選択肢があることである。 このことについては Leinster の論説 [Lei02] を読むとよい。Leinsterは, 高次の圏について様々な解説を書いていて, 高次の圏に関連した分野の全体像を得るのに非常に役に立つ。 Leinster が扱っている10の定義の他にも, Mayが提案している operad を用いたものがある。 May のホームページから download できる “ Operadic categories, \(A_{\infty }\) categories, and \(n\)-categories” というものである。Simpson は, [Simb] で Dwyer-Kan localization を用いて様々な \(n\)-category の比較をしている。また Toën は高次の圏の一意性の証明のために, [Toë05] で “theory of \((1,\infty )\)-category” の概念を導入している。 最近では, Lurie の \(\infty \)-category あるいは \((\infty ,1)\)-category という呼び方の方が定着しているようであるが。更に, identity morphism の概念を弱めるというアイデアもある。Joachim Kock の [Koc06] である。他にも, category object を取るという操作を繰り返して, 高次の圏を作るというアイデアもある。Fiore と Paoli [FP10] は \(n\)-fold category と呼んでいる。

これらの様々な試みで, operad は重要な役割を果たしている。E. Cheng は [Che11] で operad を用いて定義された Trimble の \(n\)-category と Batanin の \(n\)-category [Bat98] の比較を行っている。 Maltsiniotis の [Mal] によると, Batanin のものは, Grothendieck が “Pursuing Stacks” の中で考えた \(\infty \)-groupoid とかなり近いようである。

  • Grothendieck の \(\infty \)-groupoid

Grothendieck の \(\infty \)-groupoid については, Ara の [Ara13a] をまず見てみるのがよいと思う。Ara は, [Ara13b] で strict \(\infty \)-groupoid との比較も行なっている。

また opetope という概念も有用であるらしい。

Opetope は, Baez と Dolan [BD98] により, weak \(n\)-category を近似するために導入された。 他にも [Che04; Che03; Koc+10] などの文献がある。 Leinster の本 [Lei04] にも解説がある。 その一般化として, actad というものを Sophie Kriz [Kri] が導入している。

  • actad

Topological quantum field theory で使うことを考えたものとして, Smyth と Woolf [SW] の Whitney \(n\)-category というものがある。同様に topological quantum field theory で使うために考えられたのが Feshbach と Voronov [FV] の pseudo \(n\)-category である。

一般の \(n\)-category は, このような理由で, まだ誰でも使える道具であるとは言えないが, \(2\)-category は既に様々な分野に使われている。その次の \(3\)-category は, Cheng と Makkai の [CM09] の introduction にもあるように, 問題が多い。Gordon と Power と Street の tricategory [GPS95] をはじめとして, いくつかモデルは考えられているが。Hoffnung [Hof] によると, その次の tetracategory の定義は, 1995年の Trimble の Street への手紙に書かれているらしい。幸い, この Hoffnung の論文にその定義が再録されている。

Weak \(2\)-category (bicategory) と weak \(3\)-category (tricategory) の最大の違いは, 前者は strict \(2\)-category に置き換えることができるのに対し, 後者はできないことにある。Weak \(3\)-category は, Gray category にしかできないのである。より高次の圏を考えるときには, この Gray category の概念を一般化しなければならないが, それを multitensor という概念により考えているのが, Weber らの仕事 [BW11; Web13; Web; BCW] である。

  • multitensor

\(n \rightarrow \infty \) とすると, \(\infty \)-category または \(\omega \)-category という概念が得られる。 “\(\infty \)-category” という用語は, Lurie の影響で, 最近では \((\infty ,1)\)-category の意味で使われることが多いが。

Street が strict \(n\)-category を調べるために [Str76] で考えた computad という概念は, Batanin [Bat] らにより weak \(n\)-category に使えるように拡張されている。同じものは Burroni や Métayer [Mét03] が polygraph という名前で使っているようである。 Métayer は [Mét] で globular set に基づいた \(\infty \)-category の圏での cofibration (とtrivial fibration) を, polygraph を用いて定義している。Polygraph については, Burroni と Métayer が Ara らと書いた monograph [Ara+] がある。

  • computad あるいは polygraph

Hermida らにより[HMP02] で導入された multitopic set は, Harnik らの [HMZ] によると computad の multicategory 版のようである。

  • multitopic set

C. Simpson は [Sima] で \(n\)-category での (co)limit について考えている。Homotopy (co)limit との関係についても考えている。

別のアプローチとして double category を一般化した \(n\)-fold category を用いたものがある。Paoli [Paoa; Paod; Paoc] により研究されている。

  • weakly globular \(n\)-fold category

Paoli の [Paob]はその研究についてまとめたものであるが, Part I は higher category についての解説としても使える。

Dorn は thesis [Dor] で associative \(n\)-category というものを定義している。結合性も単位性も strict に成り立つが, weak structure を homotopy として定義したものである。

  • associative \(n\)-category

Heidemann, Reutter, Vicary [HRV] によると, Dorn と Douglas と Vicary により導入されたものらしいが, その論文はまだ出ていないようである。 Reutter と Vicary [RV19] は, homotopy.io という proof assistant を implement するのに使っている。

無限次の圏への approach としては, nerve を取る操作が small category の圏を simplicial set の圏に埋め込んでいて, しかもその像が Kan complex とよく似た特徴付けを持つことに着目し, Kan complex の定義を適当に弱めたもの, つまり weak Kan complexを, \(2\)次以上のmorphism が invertible である \(\infty \)-category (\((\infty ,1)\)-category) として用いるというアイデアもある。より一般に, \(n\)次以上の morphism が invertible であることを仮定した, \((\infty ,n)\)-category も考えられている。また, これらは “homotopy theory of homotopy theory” の model とも考えられる。

groupoidや群などの特別な種類の small category の高次元化も考えられている。 そして, 表現論の高次版も調べられるよ うになった。

高次の圏の応用としては, 最初に書いた topological quantum field theory や Lurie らの derived algebraic geometry などが最近目につく。他には, Schreiberらの 高次の圏による微 分幾何やその数理物理への応用などがある。

References

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