圏と関手の言葉を用いると, 様々な概念が統一的に扱えるようになる。その良い例が, limit と colimit である。
かつて, 逆極限 (inverse limit) とか射影的極限 (projective limit) と呼ばれていたものは, 現在では cofiltered
limit と呼ぶべきだろう。直積や pull-back などと合せ limit として統一して扱うことができる。 Dwyer と Spalinski の
モデル圏の解説 [DS95] には, 分かりやすい (co)limit の解説も含まれている。
-
直積 (product)
-
引き戻し (pull-back)
- equalizer
- cofiltered limit
-
limit
一方, かつて直極限 (direct limit) などと呼ばれていたものは, 現在では filtered colimit と呼ばれる。 直和や
push-out なども colimit である。
- 直和 (sum) あるいは余積 (coproduct)
-
push-out
- coequalizer
- filtered colimit
-
colimit
Limit と colimit の 定義は universal property で与えられるのが普通である。 それを言い換えると, adjoint
functor の言葉になる。
- \(\bm {X}\) を 小圏, \(\bm {C}\) を圏とする。 \(\category {Funct}(\bm {X},\bm {C})\) を, \(\bm {X}\) から \(\bm {C}\) への関手の成す圏とし \[ \Delta : \bm {C} \longrightarrow \category {Funct}(\bm {X},\bm {C}) \] を constant diagram functor とすると, \[ \lim : \category {Funct}(\bm {X},\bm {C}) \longrightarrow \bm {C} \] は
\(\Delta \) の right adjoint functor である。また \[ \colim : \category {Funct}(\bm {X},\bm {C}) \longrightarrow \bm {C} \] は \(\Delta \) のleft adjoint functor である。
このことから, 次のことがすぐ分かる。
-
adjoint functor の組 \[ F : \bm {C} \longleftrightarrow \bm {D} : G \] に対し, \(F\) は colimit を保ち, \(G\) は limit を保つ。
つまり left adjoint は colimit を保ち, right adjoint は limit を保つ。
Limit を取らないで, 図式を1つの object として考えることも重要である。 これも Grothendieck のアイデアなのだろうか。
SGA4 [SGA4-172] の exposé 1 に詳しく書かれている。 ind-object と pro-object と呼ばれるものである。
ホモトピー論では, pro-object の方がよく使われる。
Limit と colimit の可換性については, よく知られているのは filtered colimit と finite limit
の場合である。その一般化としては, Bjerrum, Johnstone, Leinster, Sawin の [Bje+] などがある。
任意の limit と colimit で閉じている圏は, 様々な構成が自由にできて非常に便利である。 よって, モデル圏の条件の一つにもなっている。
-
空な圏
\(\emptyset \) を, object の集合 (よって morphism の集合も) が空集合である圏として定義する。このとき一意的に決まる関手 \[ \emptyset : \emptyset \longrightarrow \bm {C} \]
に対し \(\lim \emptyset \) は, (もし存在すれば) \(\bm {C}\) の initial object であり, \(\colim \emptyset \) は, \(\bm {C}\) の terminal object である。
よって small limit で閉じている圏は initial object を持ち, small colimt で閉じている圏は
terminal object を持つ。
- 集合の圏は small limit と colimit で閉じている。
- 位相空間の圏は small limit と colimit で閉じている。
- Abel群の圏は small limit と colimit で閉じている。
上の最後の三つのことを確かめるには, limit と colimit の具体的な構成が必要である。普通は (co)equalizer
で構成する。
- 集合の圏での limit と colimit の構成
- 位相空間の圏での limit と colimit の構成
- Abel群の圏での limit と colimit の構成
Abel群の圏, より一般に Abel圏での sequential (co)limit は, 様々な場面で現われるので, 嫌でも慣れ親しむしかない。
また sequential limit に対しては, その derived functor である \(\lim ^1\) も知っておく必要がある。
Abelian category での sequential limit と \(\lim ^1\) については, Eilenberg と Moore の [EM62]
を読むとよいだろう。 日本語なら [荒木捷75] に解説がある。 Abel群の圏での重要な性質としては, Mittag-Leffler
condition の下で \(\lim ^1\) が消えることがあるが, これは一般の Abelian category では成り立たない。 Roosの [Roo61]
での「定理」に対する反例が, Neeman により [Nee02] で与えられている。
その後, Roos は, [Roo06] で Mittag-Leffler condition の下で \(\lim ^1\) が消えるためにはどのよう条件が必要かを考察している。
より一般の limit や colimit の derived functor については, あまり詳しく扱ったものがないようである。例えば, Oliver
の [Oli94] には limit の derived functor を計算するための resolution について書いてある。 後は Bousfield と
Kan の [BK72] ぐらいだろうか。 と思っていたら, 最近 Ivanov と Mikhailov の [IM15] が出た。
群のホモロジーなどに使うことを考えている。
Limit や colimit の derived functor のホモトピー版が, Bousfield と Kan の本のタイトルにもある,
ホモトピー極限である。
Colimit で閉じている圏では, 有限でない morphism の列の合成が考えられる。
これは, 例えば cofibrantly generated model category を扱う際に必要になる。
Small category を colimit で閉じた圏にする (cocompletionをとる) するためには, presheaf
の圏を考えれば良い, というのが, Day と Lack の [DL07]である。
定義域の圏も値域の圏も同じ圏で enrichされている場合には, indexed (co)limit あるいは weighted
(co)limit という enrichment も考慮に入れた (co)limit の一般化を考えるべきである。Kelly の [Kel82]
に詳しい。
\(2\)-category での極限には様々な問題があり, 注意が必要である。Fiore の [Fio06] は, conformal field theory
の基礎付けのために, \(2\)-category の limit などを考えたものである。
References
-
[Bje+]
-
Marie Bjerrum, Peter Johnstone, Tom Leinster, and William
F. Sawin. Notes on commutation of limits and colimits. arXiv:
1409.7860.
-
[BK72]
-
A. K. Bousfield and D. M. Kan. Homotopy limits, completions
and localizations. Lecture Notes in Mathematics, Vol. 304. Berlin:
Springer-Verlag, 1972, pp. v+348.
-
[DL07]
-
Brian J. Day and Stephen Lack. “Limits of small functors”. In: J.
Pure
Appl. Algebra 210.3 (2007), pp. 651–663. arXiv: math/0610439.
url: http://dx.doi.org/10.1016/j.jpaa.2006.10.019.
-
[DS95]
-
W. G. Dwyer and J. Spaliński. “Homotopy theories and model
categories”. In: Handbook of algebraic
topology. Amsterdam: North-Holland, 1995, pp. 73–126. url:
http://dx.doi.org/10.1016/B978-044481779-2/50003-1.
-
[EM62]
-
Samuel Eilenberg and John C. Moore.
“Limits and spectral sequences”. In: Topology 1 (1962), pp. 1–23.
url: https://doi.org/10.1016/0040-9383(62)90093-9.
-
[Fio06]
-
Thomas M. Fiore. “Pseudo limits, biadjoints, and pseudo algebras:
categorical foundations of conformal field theory”. In: Mem. Amer.
Math. Soc. 182.860 (2006), pp. x+171. arXiv: math/0408298.
-
[IM15]
-
Sergei O. Ivanov and Roman Mikhailov. “A higher limit approach
to homology theories”. In: J. Pure Appl. Algebra 219.6 (2015),
pp. 1915–1939. arXiv: 1309.4920. url:
https://doi.org/10.1016/j.jpaa.2014.07.016.
-
[Kel82]
-
Gregory Maxwell Kelly. Basic concepts of enriched category
theory. Vol. 64. London Mathematical Society Lecture Note
Series. Cambridge: Cambridge University Press, 1982, p. 245.
isbn: 0-521-28702-2.
-
[Nee02]
-
Amnon Neeman. “A counterexample
to a 1961 “theorem” in homological algebra”. In: Invent. Math.
148.2 (2002). With an appendix by P. Deligne, pp. 397–420. url:
http://dx.doi.org/10.1007/s002220100197.
-
[Oli94]
-
Bob Oliver. “Higher limits via Steinberg
representations”. In: Comm. Algebra 22.4 (1994), pp. 1381–1393.
url: http://dx.doi.org/10.1080/00927879408824911.
-
[Roo06]
-
Jan-Erik Roos. “Derived functors of inverse limits revisited”.
In: J. London Math. Soc. (2) 73.1 (2006), pp. 65–83. url:
http://dx.doi.org/10.1112/S0024610705022416.
-
[Roo61]
-
Jan-Erik Roos. “Sur les foncteurs dérivés de \(\underleftarrow \lim \). Applications”. In:
C. R. Acad. Sci. Paris 252 (1961), pp. 3702–3704.
-
[SGA4-172]
-
Théorie des topos et cohomologie étale des schémas. Tome 1:
Théorie des topos. Lecture Notes in Mathematics, Vol. 269.
Séminaire de Géométrie Algébrique du Bois-Marie 1963–1964
(SGA 4), Dirigé par M. Artin, A. Grothendieck, et J. L.
Verdier. Avec la collaboration de N. Bourbaki, P. Deligne et B.
Saint-Donat. Berlin: Springer-Verlag, 1972, pp. xix+525.
-
[荒木捷75]
-
荒木捷朗. 一般コホモロジー. Vol. 4. 紀伊國屋数学叢書. 東京: 紀伊國屋書店, 1975.
|