単体的複体の homology の定義を, 任意の位相空間に拡張しようとして Eilenberg が考えた [Eil44] のが singular
chain complex とその homology である。 現在のホモトピー論では, singluar simplicial set を作る functor
と自由アーベル群を作る functor, そして simplicial Abelian group から chain complex を作る functor
の合成で定義するのが普通である: \[ \category {Top} \rarrow {S} \category {Set}^{\Delta ^{\op }} \rarrow {F} \category {Abel}^{\Delta ^{\op }} \rarrow {C} \category {dg}(\category {Abel}) \] ここで, \(\category {Set}^{\Delta ^{\op }}\) は simplicial set の圏, \(\category {Abel}^{\Delta ^{\op }}\) は simplicial Abelian groupの圏, \(\category {dg}(\category {Abel})\)
は (bounded below) differential graded Abelian group, つまり chain complex
の圏である。
古いホモロジーの教科書 (例えば, 中岡の[中岡稔70]) だと直接 singular chain complex を定義しているが,
それではこの構成の本質は見えてこない。 Simplicial set のレベルで考えるべきである。例えば, Dold-Kan の定理により,
上の列の3番目の関手 \(C:\category {Abel}^{\Delta ^{\op }} \to \category {dg}(\category {Abel})\) は圏同値になっている。
位相空間の圏は直積により symmetric monoidal category の構造を持つ。一方 chain complex の圏や可換環
\(k\)上の graded module の圏もtensor product による symmetric monoidal category
の構造を持つ。つまり特異ホモロジーを関手の合成 \[ \category {Top} \rarrow {S_*(\ )\otimes k} \category {dg}(\lMod {k}) \rarrow {H_*(\ )} \enriched {k}{\category {dgMod}} \] と考えたとき, 三つの圏全てが symmetric monoidal structure
を持つ。そこでこれらの関手が symmetric monoidal structure を保つかどうかというのは自然な問題である。
- Eilenberg-Zilber の定理[EZ53]。つまり自然な chain map \[ \begin {split} \nabla & : S_*(X)\otimes S_*(Y) \longrightarrow S_*(X\times Y) \\ \rho & : S_*(X\times Y) \longrightarrow S_*(X)\otimes S_*(Y) \end {split} \] で互いに chain homotopy
inverse になっているものが存在する。
Eilenberg-Zilber の定理の写像や chain homotopy については, acyclic model の方法で構成されることもあるが,
具体的に記述することも可能である。例えば, 日本語の教科書では, [小中菅67] に \(\nabla \) と \(\rho \) の記述がある。元々 Eilenberg と Mac Lane
により [EM53; EM54] で定義されたものであるが。
- Eilenberg-Mac Lane の写像 [EM54] \[ \nabla : S_*(X)\otimes S_*(Y) \longrightarrow S_*(X\times Y) \] の定義。
- Alexander-Whitney の写像 \[ \rho : S_*(X\times Y) \longrightarrow S_*(X)\otimes S_*(Y) \] の定義。
\(\nabla \circ \rho \) と恒等写像の間の chain homotopy については, [EM54] で帰納的に定義されている。また Shih が
[Shi62] でも帰納的に定義している。Shih の定義した chain homotopy の具体的な表示については [Rea00] の
Appendix に Rubio の公式として与えられている。また, その chain homotopy は Shih operator
と呼ばれている。
- Shih operator の帰納的な定義と Rubio の公式
このように, acyclic model の方法で証明するのではなく, 具体的な表示を与えることは, 計算トポロジーのような応用を考える上では重要である。
これらの写像や chain homotopy を考えるときには, normalized chain complex の上で考えた方がよい。実際,
Eilenberg と Mac Lane は [EM54] で normalized chain complex の上で Eilenberg-Zilber
の定理を証明している。
- 位相空間 \(X\) の normalized singular chain complex \(S_*^N(X)\) の定義
- Eilenberg-Mac Lane の写像と Alexander-Whitney の写像と Shih operator \(\Phi \) は
normalized singular chain complex 上で次をみたす: \[ \begin {split} \rho \circ \nabla & = 1 \\ \nabla \circ \rho & = 1+\partial \Phi +\Phi \partial \\ \Phi \circ \nabla & = 0 \\ \rho \circ \Phi & = 0 \\ \Phi \circ \Phi & = 0 \end {split} \]
- 対角写像から誘導される写像と Alexander-Whitney の写像の合成 \[ S_*^N(X) \rarrow {\Delta _*} S_*^N(X\times X) \rarrow {\rho } S_*^N(X)\otimes S_*^N(X) \] により, \(S_*^N(X)\) は differential graded
coalgebra になる。
Eilenberg-Zilber の定理により, 積空間のホモロジーは chain complex の tensor product
のホモロジーの問題に帰着される。 とりあえずは以下のことを知っていればよいだろう。
- Chain complexに対するKünnethの定理。 つまり単項イデアル域 \(k\)上のchain complex \(C\)と\(D\)に対し,
\(C\)が\(k\)上freeならば次の完全列がある: \[ 0 \longrightarrow H_*(C)\otimes _k H_*(D) \longrightarrow H_*(C\otimes _k D) \longrightarrow \Tor _1^k(H_*(C),H_*(D)) \longrightarrow 0 \] 更にこの完全列はsplitする。
Serre が [Ser51] で行なっているように, simplicial set ではなく cubical set を使うという選択肢もある。
(\(\bbC \)上の) 代数多様体や複素多様体で閉じた世界で考える際には, \(\Delta ^n\) は使えない。そのような場合によく使われるのが, 超平面 \[ \set {(z_0,\ldots ,z_n)\in \bbC ^{n+1}}{z_0+\cdots +z_n=1} \] である。例えば,
Larusson の [Lár09] など。
Topological stack への一般化が Coyne と Noohi [CN16] により導入されている。
References
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pp. 49–139. url: https://doi.org/10.2307/1969702.
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Sci. Publ. Math. 13 (1962), p. 88.
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[中岡稔70]
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中岡稔. 位相幾何学 — ホモロジー論 —. Vol. 15. 共立講座現代の数学. 東京: 共立出版, 1970.
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[小中菅67]
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小松醇郎, 中岡稔, and 菅原正博. 位相幾何学 I. 東京: 岩波書店, 1967.
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