ホモロジーやホモトピー群を扱う上で, 様々な (次数付きの) 代数的対象が必要になる。
まず基本的なものは, 以下のものである。次数の付いていない場合と, 付いている場合の定義, そしてそれらの間の morphism
の定義を知っている必要がある。 これらは全て可換環 \(k\) 上の (次数付き) 加群の圏で考えられる。
次数付きの場合は, まずは Milnor と Moore の次数付き Hopf algebra についての論文 [MM65] を読むとよい,
と思う。 より一般的な Hopf algebroid などの概念を理解するためにも, Hopf algebra の場合に慣れておくとよい。 ただし,
Milnor と Moore の論文は, Hopf algebra を勉強するためには, 適当ではない。antipode のことを canonical
antiautomorphism と呼んでいるなど, 用語が今の Hopf algebra の理論で使われているものとかなり異なっている。 更に,
次数付きで連結な Hopf algebra は, いつでも antipode を構成できるため, antipode の存在を仮定していない。 Hopf
algebra については, Sweedler の [Swe69] や Abe の [Abe80] などを読んだ方がよい。
空間のcommutative ring spectrum で定義されたコホモロジーや, commutative ring spectrum
のホモトピー群は, graded Abelian group の圏での commutative monoid object になる。具体的には, 積が
Koszul sign rule \[ x\otimes y = (-1)^{\mathrm {deg}(x)\mathrm {deg}(y)}y\otimes x \] をみたす graded ring であるが, graded commutative ring と呼ぶのが普通だろう。 当然,
代数的トポロジーでは古くから使われてきたものである。
Hesselholt と Pstragowski [HPa; HPb] は, Dirac ring と呼んで, 代数幾何学を可換環から Dirac ring
に拡張することを考えている。
- graded commutative ring あるいは Dirac ring
当然であるが, 具体例も, できるだけたくさん知っておきたい。
可換環上の differential operator を tensor algebra に拡張するために考えられたのが, twisted
commutative algebra という概念らしい。Ginzburg と Schedler [GS10] によると,
既に1950年代に代数的トポロジーで発見されていた概念のようである。
- twisted associative algebra
- twisted commutative algebra
可換環 \(k\) 上の “algebra” の圏から \(k\)-module の圏へは, forgetful functor がある。
\[ \begin {split} \enriched {k}{\category {Algebra}} & \longrightarrow & \lMod {k} \\ \enriched {k}{\category {Coalgebra}} & \longrightarrow & \lMod {k} \\ & \vdots \end {split} \]
これらの functor の left adjont は, free object を対応させる functor である。 各種 “algebra” の圏における
free object が何か, 考えておくとよい。
これら (co)algebra を調べるためには, その上の (co)module を調べることが基本となる。
もちろん, これら全てに次数付きのものが考えられる。次数付きの module 等については Hilbert series が定義される。行列に係数を持つ
Hilbert series を考えることもできる。
以上で使った「次数」は, \(\Z \) による次数付けのことであるが, より一般の群や, 更には small category による次数付けも考えられている。
代数的トポロジーでは, 群の表現による grading が, equivariant homology などで使われる。
“よい”スペクトラム \(E\) に対し, \(E_*(E)\) は Hopf algebroid になり, \(E\) 係数のホモロジー \(E_*(X)\) は \(E_*(E)\) 上の comodule になる。よって
安定ホモトピー論にとって, Hopf algebroid とその上の comodule は自然な研究対象である。
これらの (co)module に対し, (co)hom や (co)tensor product などの\(2\)変数関手が定義される。
- tensor product
- cotensor product
- Hom
- Cohom
これらの関手, 及びそれらの derived functor については, まずは Milnor と Moore の論文 [MM65], そして
Eilenberg と Moore の論文 [EM64; EM66] を見るとよい。Milnor と Moore の論文にあるHopf代数に関連した概念は,
代数的トポロジーを専攻するなら, 全て必要になる。
以上の概念には全てに微分付きの場合が考えられる。 積をもつ代数的対象の微分を考えるときには, 積の微分の公式 (Leibniz rule)
が成り立っているもの, つまり derivation を考える。
Graded algebra の一般化 (many-objectification) として, \(\Z \)-graded (\(k\)-linear) category,
そしてその微分付きの dg category がある。 それらの上の module の圏や, その derived category も考えられている。
群やより一般の small category による grading を持つ category を考えることもできる。
References
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[Abe80]
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Translated from the Japanese by Hisae Kinoshita and Hiroko Tanaka.
Cambridge: Cambridge University Press, 1980, p. xii 284. isbn:
0-521-22240-0.
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Universitaire, Louvain, 1964, pp. 81–90.
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Samuel Eilenberg and John C. Moore. “Homology and fibrations. I.
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http://dx.doi.org/10.1007/s00029-010-0029-8.
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[MM65]
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Sciences. Mathematical Monographs (New Series)]. Semi-infinite
homological algebra of associative algebraic structures, Appendix C
in collaboration with Dmitriy Rumynin; Appendix D in collaboration
with Sergey Arkhipov. Birkhäuser/Springer Basel AG, Basel, 2010,
pp. xxiv+349. isbn: 978-3-0346-0435-2. arXiv: 0708 . 3398. url:
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[Swe69]
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