スペクトラムの smash product は, Boardman により 1960年代に定義されていたが, その当時から, 積 \(E\wedge E \to E\)
を持つものとして ring spectrum を考える, というのは誰しも思うことであった。 また, コホモロジーの積の可換性と対応させるために,
可換な積を持つ spectrum を定義しようという試みもあった。
問題は, up to homotopy でないと smash product が定義されないことであったが, それを operad
を用いて解決しようとしたのが May であり, [May77] などで \(E_{\infty }\)-ring spectrum の概念を導入した。
その後, そのアイデアを発展させ, Elmendorf, Kriz, Mandell と共に [Elm+97] で \(S\)-module として
spectrum の圏を定義すると symmetric monoidal category になることを示した。他にも symmetric
spectrum など, symmetric monoidal category になる spectrum の圏のモデルは, いくつかある。
このような圏では, commutative monoid object として “可換な ring spectrum” を定義することができるが,
重要なことは, それ以外にも, homotopy category に落すと可換になるものが色々あるということである。
そのような homotopy 可換性を扱うには, やはり May のアイデアに従い, operad を用いるのがよい。よって, \(E_{n}\)-rings
spectrum の概念を得る。
\(E_{\infty }\)-ring spectrum が, \(S\)-module の圏での commutative monoid object に対応する。 最も基本的な \(E_{\infty }\)-ring
spectrum の例は, 可換環 \(R\) の Eilenberg-Mac Lane spectrum \(HR\) である。また, 空間 \(X\) に対し function
spectrum \(F(X,HR)\) も \(E_{\infty }\)-ring spectrum になる。
Benson と Greenlees [BG14; BG18] は, これを \(X\) の \(R\) に係数を持つ cochain complex の spectrum
版とみなし, \(C^{*}(X,R)\) という記号を用いている。あまり良い記号とは思えないが, ホモトピー群を取ると \[ \pi _{n}(C^{*}(X,R)) = H^{-n}(X,R) \] とコホモロジーを得るので, その意味では cochain
complex の spectrum 版とみなすのは正しい。
\(n\ge 2\) ならば, homotopy category で積が可換になる。 となると, 与えられた ring spectrum が \(E_{\infty }\) になるのか,
もしならなければ \(E_{n}\)構造を持つ最大の \(n\) は何か, という問題を考える必要が出てくる。
例えば, May が [May75] で提案しているのは, \(\mathrm {BP}\) が \(E_{\infty }\)-ring spectrum になるか, という問題である。\(\mathrm {MU}\) は \(E_{\infty }\)-ring
spectrum になるので, その \(p\) での localization の直和成分として \(\mathrm {BP}\) もなりそうであるが, 残念ながらそうではないようである。\(p=2\) のとき
Lawson [Law18], 奇素数で Senger [Sen] により \(E_{2p^2+4}\)-ring spectrum の構造を持たないことが示されている。
また彼等は truncated BP spectrum \(\mathrm {BP}\langle n\rangle \) が \(n\ge 4\) で \(E_{2p^2+4}\)-ring spectrum の構造を持たないことも示している。
一方で, \(\mathrm {BP}\langle 2\rangle \) は \(p=2\) [HL10] と \(p=3\) [LN12] で \(E_{\infty }\)-ring spectrum になることが示されている。 \(p\ge 5\) での \(\mathrm {BP}\langle 2\rangle \) と \(\mathrm {BP}\langle 3\rangle \) については,
良く分かっていないようである。
別のアプローチとして, Lurie [Lurb] は, “spectrum の圏での可換環論”を行なうためには, 高次の圏を用いるのがよいと考えている。
スペクトラムの symmetric monoidal \(\infty \)-category [Lura] を考え, その commutative algebra object
として \(E_{\infty }\)-ring spectrum を定義している。
ここで \(E_{\infty }\)-ring spectrum という用語が, 元の May の定義と異なるものに対し用いられていることに注意する。これらの現代的な
commutative ring spectrum と同じ意味で, \(E_{\infty }\)-ring spectrum という用語が用いられることも多い。May が
[May09] で書いているように, ホモトピー圏まで落せば同一視できるが, 具体的な対象としては別のものとして考えないといけない。
この問題については, この May の論文を読むべきだろう。
現代的な commutative ring spectrum の解説としては, Richter の [Ric22] がある。
References
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[BG18]
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Dave Benson and John Greenlees. “Corrigendum to “Stratifying
the derived category of cochains on \(BG\) for \(G\) a compact Lie
group” [J. Pure Appl. Algebra 218 (4) (2014) 642–650] [
MR3133695]”. In: J. Pure Appl. Algebra 222.2 (2018), p. 489. url:
https://doi.org/10.1016/j.jpaa.2017.04.002.
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Mathematical Society, Providence, RI, 1997, pp. xii+249. isbn:
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J. P. May. “Problems in infinite loop space theory”. In: Conference
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[Ric22]
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Birgit Richter. “Commutative ring spectra”. In: Stable categories
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Cambridge Univ. Press, Cambridge, 2022, pp. 249–299. arXiv:
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[Sen]
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Andrew Senger. The Brown-Peterson spectrum is not \(E_{2(p^2+2)}\) at odd primes.
arXiv: 1710.09822.
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