Fundamental Groups and Related Topics

代数的トポロジーでは, 議論を簡単にするために, 単連結という仮定をする場合が多い。この単連結という仮定は, 特に stableな世界では, 実用上問題にならないからである。

とはいうものの, 実射影空間 \(\RP ^n\) などの重要な空間で単連結でないものもあり, 基本群を常に無視するというわけにはいかない。実際, 幾何学的な問題では基本群の情報は本質的である。

ではどれぐらい基本群について知っていればよいだろう?

基本群は3年生の講義で扱う話題であるが, 講義で扱われていることだけでは不十分かもしれない。 van Kampenの定理を扱うためには, 群の自由積 (amalgamated product) が必要になるし, より一般には群の圏の colimit を考える必要がある。普通は, それは学部の講義では扱わないだろう。

基本群は様々なトポロジーの本にいろんな扱い方で書いてあるので, 4年生のうちに, 以下の内容を様々な文献で探してみるのがよいだろう。Hatcher の本 [Hat02] なら web site からPDFが手に入る。Fulton の本 [Ful95] は winding number から始まっている。

  • 基本群 (fundamental group) の定義
  • \(x_0\) と \(X_1\) が \(X\) の同じ弧状連結成分に属するなら, \(x_0\) と \(x_1\) を 結ぶ道を用いて \(\pi _1(X,x_0)\) と \(\pi _1(X,x_1)\) の間の同型を作ることができる。
  • 基点を保つ連続写像 \[ f : (X,x_0) \longrightarrow (Y,y_0) \] から誘導された準同形 \[ f_* : \pi _1(X,x_0) \longrightarrow \pi _1(Y,y_0) \] の定義。
  • 恒等写像 \(1_X : X \to X\) に対し \((1_X)_* = 1_{\pi _1(X,x_0)}\) である。
  • 基点を保つ連続写像 \[ f,g : X \longrightarrow Y \] について, もし \(f \simeq g\) (基点を保ってhomotopic)ならば, \(\pi _{1}(X)\)の上で\(f_{*}=g_{*}\)となる。
  • 基点を保つ連続写像 \[ \begin {split} f & : X \longrightarrow Y \\ g & : Y \longrightarrow Z \end {split} \] に対し, \(\pi _1(X)\) 上で \[ (g\circ f)_* = g_*\circ f_* \] となる。
  • \(X \simeq Y\) (基点を保ってホモトピー同値) ならば, \(\pi _{1}(X) \cong \pi _{1}(Y)\) である。

以上は, 基本群が基点付き位相空間と基点を保つ連続写像の成す から, 群と準同形の成す圏へのホモトピー不変関手である, ということである。

具体的な表示としては, regular cell complex の場合は, 辺を辿ったループを生成元として \(2\)-cell を関係式としたものがある。 例えば, Curien と Laplante-Anfossi の [CL] の §1.1 を見るとよい。基本群というより fundamental groupoid の場合であるが。

  • regular cell complex の基本群の表示

群としての表示を求めるときには, Seifert-van Kampen の定理も有用である。

基本群を求めるときには, 被覆空間との関連も有用である。例えば, \(S^{1}\) の基本群は, 被覆空間 \(\exp :\R \to S^{1}\) を用いて求めることができる。

  • 被覆空間と基本群の関係
  • \(\pi _1(S^1) \cong \Z \)

基本群と被覆空間の関係, 特に普遍被覆の存在のためには半局所単連結 (semilocally simply connected) という変な条件が付く。 この条件の意味を考えるために, Biss は [Bis02] で位相の入った基本群の定義を導入した。 同じ motivation で, Fischer ら [Fis+11] は Spanier group という群を考えている。

被覆空間の射影は, 特に, 基本群の単射を誘導するが, 逆に基本群の全射を誘導する写像も知られている。 古くは Smale の [Sma57]がある。その 一般化が, Calcut と Gompf と McCarthy [CGM12] により得られている。

基本群が他の代数的トポロジーの不変量と大きく異なるのは, その非可換性である。とりあえず可換にしてみると, 整係数の ホモロジー群になる。

  • \(X\)を基点付き空間とするとき自然な同型 \[ H_1(X) \cong \pi _1(X)/[\pi _1(X),\pi _1(X)] \] がある。

これは, Hurewicz の定理の一部である。 より深い構造を調べるためには, 順番に交換子を取っていった列, \[ G \supset G_1=[G,G] \supset G_2=[G,G_1] \supset \cdots \supset G_c=[G,G_{c-1}] \supset \cdots \] つまり, lower central series を用いるべきだろう。

  • 基本群の元 \([f] \in \pi _1(X)\) が \([\pi _1(X),\pi _1(X)]\) の元であるための必要十分条件は \[ f : S^1 \longrightarrow X \] が向き付け可能な閉曲面から円板を一つ取り除いた空間からの写像に拡張できる ことである。
  • 基本群の元 \([f] \in \pi _1(X)\)が\(\pi _1(X)\) の lower central series の \(c\)番目の項に入るための必要十分条件は, \[ f : S^1 \longrightarrow X \] が class \(c\) の grope からの写像に拡張できることである。[Can78]

その他基本群に関係することで基本的なことは次の二つだろうか。

基点を指定しない場合には, 群ではなく groupoid を考え fundamental groupoid を使うべきであるが, そのような基本群の一般化については, 以下にまとめた。

基本群が群を調べるのに使えることも知っておくとよいと思う。例えば, May の [May99] には, 自由群の部分群が自由群であるという事実が, 基本群を用いて証明してある。また Freedman は, [Fre11] で基本群を用いて group width という群の不変量を定義している。

基本群は, monodromy などにより, 多様体などの幾何学的構造とも深く関係していて興味深い。 例えば, 「滑らかな 代数多様体の基本群として現れる群にはどのようなものがあるか」というのは, Serre の出した未解決問題の一つである。

Conner と Eda の [CE05] によると, homeomorphism type を基本群から復元できる空間もあるようである。

References

[Bis02]

Daniel K. Biss. “The topological fundamental group and generalized covering spaces”. In: Topology Appl. 124.3 (2002), pp. 355–371. url: http://dx.doi.org/10.1016/S0166-8641(01)00247-4.

[Can78]

J. W. Cannon. “The recognition problem: what is a topological manifold?” In: Bull. Amer. Math. Soc. 84.5 (1978), pp. 832–866. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0002-9904-1978-14527-3.

[CE05]

Greg Conner and Katsuya Eda. “Fundamental groups having the whole information of spaces”. In: Topology Appl. 146/147 (2005), pp. 317–328. url: http://dx.doi.org/10.1016/j.topol.2003.05.005.

[CGM12]

Jack S. Calcut, Robert E. Gompf, and John D. McCarthy. “On fundamental groups of quotient spaces”. In: Topology Appl. 159.1 (2012), pp. 322–330. arXiv: 0904.4465. url: https://doi.org/10.1016/j.topol.2011.09.038.

[CL]

Pierre-Louis Curien and Guillaume Laplante-Anfossi. Topological proofs of categorical coherence. arXiv: 2302.07391.

[Fis+11]

Hanspeter Fischer, Dušan Repovš, Žiga Virk, and Andreas Zastrow. “On semilocally simply connected spaces”. In: Topology Appl. 158.3 (2011), pp. 397–408. arXiv: 1102.0993. url: https://doi.org/10.1016/j.topol.2010.11.017.

[Fre11]

Michael H. Freedman. “Group width”. In: Math. Res. Lett. 18.3 (2011), pp. 433–436. arXiv: 1011.2460.

[Ful95]

William Fulton. Algebraic topology. Vol. 153. Graduate Texts in Mathematics. A first course. Springer-Verlag, New York, 1995, pp. xviii+430. isbn: 0-387-94326-9; 0-387-94327-7. url: https://doi.org/10.1007/978-1-4612-4180-5.

[Hat02]

Allen Hatcher. Algebraic topology. Cambridge: Cambridge University Press, 2002, pp. xii+544. isbn: 0-521-79160-X; 0-521-79540-0.

[May99]

J. P. May. A concise course in algebraic topology. Chicago Lectures in Mathematics. Chicago, IL: University of Chicago Press, 1999, pp. x+243. isbn: 0-226-51182-0.

[Sma57]

Stephen Smale. “A Vietoris mapping theorem for homotopy”. In: Proc. Amer. Math. Soc. 8 (1957), pp. 604–610. url: https://doi.org/10.2307/2033527.