空間を単純な空間に分割する方法のうち, 共通部分の無い和集合に分割する方法は, 古くから代数的トポロジーで重要な役割を果してきた。
典型的なものは, CW複体であり, もう一つは, 空間の filtration である。 空間に filtration \(\cdots \subset X_{i}\subset X_{i+1}\subset \cdots \subset X\) が入っていると, \[ X = \bigcup _{i} (X_{i}\setminus X_{i-1}) \]
という共通部分の無い和集合への分割ができるので, filtration も空間の分割の一種と思ってよいだろう。また, Schürmann の本
[Sch03] のように, このような分割を stratification と呼んでいる文献もある。
Serre spectral sequence などの主要なスペクトル系列は, 空間の filtration から得られる。 最近では, Edelsbrunner
や Carlsson らによる persistent homology での用途が重要である。目的は単純な空間に分割することではないが。
一方, stratification はより幾何学的な動機から得られた概念である。 特に, 特異点を持つ多様体を考えるときに使われる
ことが多い。M. Davis の [Dav78] にあるような, 多様体への群作用から得られる stratification もある。
コーナーを持つ多様体も stratified space の例である。「良い」CW複体も stratified space の 重要な例であるが,
胞体分割には, stratification になっていないものがあることに注意する。
よって, 多様体に関する概念を stratified space に一般化しようという試みは多い。例えば, Poincaré duality や
Morse 理論など。
Guardia と Padilla の [GP] によると, Brasselet と Hector と Saralegi [BHS91] により, de
Rham理論の stratified version も構築されているらしい。
Banagl は, stratified pseudomanifold と perversity から intersection space という空間を構成し,
そのホモロジーが Poincaré duality を持つことを示している。Intersection homology とは一致しないようであるが,
関係はあるようである。微分形式を用いた de Rham 流の記述もある。
Intersection homology は, 最初単体的複体の chain を使って定義されたが, その後 perverse sheaf を用いた
intersection cohomology の定義が発見された。一般の stratified space においても, sheaf の成す圏の derived
category を考えることは有効な手法のようである。
通常の位相空間の上の locally constant sheaf に対応するのが, constructible sheaf である。Dupont は,
[Dup] でその stack 版を定義している。
Balthasar の [Bal09] では, 球面を一点とそれ以外に分けた stratification で, その上の cohomology が
constructible になる sheaf から成る derived category が調べられている。 その中で, 一般の stratified space
上の constructible derived category の性質についても調べている。各 stratum が可縮な場合は, relation を持つ
quiver の表現の圏と関連づけることができるようであるが, これは Bondal の [Bon89] を想起させる。
Intersection homology を singular homology の stratified space 版と考えると,
代数的トポロジーで用いられる位相空間に関する様々な概念の stratified 版を考えたくなる。 例えば, stratified space の
fibration については Hughes の [Hug99b] で調べられている。また Hughes は [Hug99a] で mapping cone
についても調べている。
- approximate fibration
- manifold approximate fibration
- stratified approximate fibration
- homotopically stratified space の間の stratified approximate fibration の
mapping cone には homotopically stratified space の構造が入る。[Hug99a]
- manifold stratified space の subset は stratified approximate fibration の
teardrop であるような近傍を持つ。 [Hug02]
最後の結果は, manifold stratified space の tubular neighborhood の存在定理とも言うべきものである。
このような「幾何学的な stratified space のホモトピー論」は, モデル圏が導入される前のホモトピー論に対応する。
最近では, より洗練されたホモトピー論の枠組みを用いて stratified space の ホモトピー論を構築しようという試みも多数登場している。
一方, filtered space のホモトピー論について, 一般論を構築しようとした人 がいるのかどうかよくわからない。R. Brown の
[Bro08] はそのような試みの一つなのだろうか。
References
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[Bal09]
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pp. 211–243. url: http://dx.doi.org/10.1007/BF00136813.
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Bruce Hughes. “Stratified path spaces and fibrations”. In: Proc.
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[Sch03]
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Jörg Schürmann. Topology of singular spaces and constructible
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Monografie Matematyczne (New Series) [Mathematics Institute
of the Polish Academy of Sciences. Mathematical Monographs
(New Series)]. Basel: Birkhäuser Verlag, 2003, pp. x+452. isbn:
3-7643-2189-X.
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