Poset のホモトピー論

Partially ordered setsmall category とみなし, その nerve分類空間を調べるということは, Quillen が70年代 [Qui73; Qui78] に考えている。Wachs の [Wac07] によると, それ以前に Gian-Carlo Rota が [Rot64] で poset の Möbius function を考えたときが “Poset Topology” の最初らしい。この Wachs の講義ノートは, poset のトポロジーを学ぶ際には, 是非目を通しておくべきだろう。221もの参考文献を挙げて解説してある。 他には, Björner の [Bjö95] の後半もよい。 Björner のホームページから scan した PDF を download できる。Poset の分類空間のホモトピー論的な性質については, 例えば Quillen の [Qui78] にある。

組み合せ論的には, 有限の poset を考えることが多いので, nerve からできる (有限) 単体的複体を考えることが多いようである。 組み合せ論では, poset の order complex と呼んでいる。Brady と McCammond [BM10] は, orthoscheme という単体のモデルを用いることで, 距離空間として定義している。Dlugosch [Dlu] は, 単体的複体では積に関してうまくいかないので, polyhedral pseudo-complex を用いて実現する decomposition complex という order complex の一般化を導入している。

  • poset の order complex
  • graded poset の orthoscheme complex
  • decomposition complex

逆に, 単体的複体からは, face poset を取ることにより poset が得られる。その poset の order complex (の幾何学的実現) は, 元の単体的複体の重心細分になっているので, 元の単体的複体が復元できるわけではないが, いずれにせよ, poset と単体的複体の間には, 良い対応がある。 そのため shellability などのような単体的複体の概念が, poset でも使われる。 また simplicial complex の face posetの持つ性質を抽象化した simplicial poset という概念もある。 例えば, Masuda や Panov らの torus manifold のトポロジーの研究 [MP06] や, graph の Boolean complex [RT09] など。

  • simplicial poset

Order complex をトポロジーの道具を用いて調べる際に, まず考えられるのがそのホモロジーである。

もちろん, poset を category の一種とみなし, small category のホモトピー論のテクニックを応用することも盛んに行なわれている。 その理論的な裏付けとしては, Raptis の [Rap10] がある。 そこでは, poset の category に model structure を定義し, それが small category の category の Thomason model structure と Quillen 同値であることが示されている。その equivariant 版を May と Stepman と Zakharevich [MZS17] が考えている。

具体的なテクニックについては, 独立に考えられたことも多い。例えば, closure operator から order complex の ホモトピー同値が得られることは, adjoint functor と nerve のホモトピーの関係から得られる。

  • closure operator
  • Galois connection

Closure operator については, 例えば Kozlov の本 [Koz08] にある。Galois connection は, その名前が示唆しているように, Galois 理論での, 体の拡大とGalois群の部分群の対応がその典型的な例であるが, closure operator との関係で poset (small category) の間の対応として考えられている。Denecke, Erné, Wismath の本 [DEW04] や Erné, Koslowski, Melton, Strecker の解説 [Ern+93] がある。

この方面のホモトピー論の道具としては, homotopy colimit も良く使われている。例えば, Engström による matroid の topological representation theorem [Eng] など。 この手のことは, Welker と Ziegler と Živaljević の [WZŽ99] や Babson と Kozlov の [BK] を見るとよい。

Small category の diagram の Grothendieck construction は poset で index 付けられた poset の図式の場合, poset limit と呼ばれているようである。 その order complex が各 poset の order complex でできる図式の homotopy colimit になるという事実も, 元は small category の場合の特別な場合である。 Delucci の [Del] で用いられている。

  • poset limit
  • poset limit の order complex は, 各 poset の order complex の homotopy colimit とホモトピー同値

同じ言葉で, 全く別のことが Janson により [Jan11] で定義されている。 その元になったのは, Brightwell と Georgiou の [BG10] のようであるが。 これは, Lovász と Szegedy による graph の極限の理論の poset への移植である。

Homotopy colimit を用いて証明される poset に関する重要な命題として “Poset Fiber Theorem” がある。

  • poset fiber theorem [BWW05]

その原型は, Quillen の [Qui78] である。Quillen の結果で poset を調べる際に良く使われるものとして, small category の分類空間に関する Theorem A と B がある。 それを poset に特化した形に直したものとして Babson’s criterion がある。Anderson と Davis の [AD02] の Appendix B を見るとよい。また Barmak による simple homotopy version [Bar11] もある。

群作用を持つ poset に対する Theorem A としては, Thévenaz と Webb [TW91] によるものがある。

Poset に対する群の作用を考えるときも, small category とみなして考えた方がよいようである。Babson と Kozlov は, [BK05] で poset への群の作用を考えるために, poset の圏ではなく, より広い acyclic category (loopfree small category) の圏を考えている。Poset \(P\) の群 \(G\) の作用による “quotient” \(P/G\) は一般には poset にはならないからである。Closure operator との関係については, Lehmann により [Leh10] で調べられている。

Babson と Kozlov の論文で提唱されている Main Problem は, \(P/G\) の nerve と \(P\) の nerve を \(G\) で割ったものの関係を調べることであるが, この問題はホモトピー論での Borel construction と本当の quotient, つまり homotopy colimit と本当の colimit の関係を調べる問題に似ている。 Borcherds [Bor98] は, \(G\) の \(P\) への作用を \(G\) から poset の category への functor と考え, その Grothendieck construction を取ったものを考え, それを homotopy quotient と呼んでいる。

Acyclic category よりもっと poset に似たものとしては, Bessis [Bes] の atomic category がある。

“Poset の微分幾何”を考えている人もいる。Roberts と Ruzzi らは, [RR06; RRV09; RRV13] で, poset 上の bundle やその上の connection や curvature などの概念を定義している。

Mnëv の [Mnë] では, poset の tangent bundle が定義されている。

有限 posetに位相を入れ, \(T_0\) 空間と考えることもできる。 その空間上の は, 元の poset を small category とみなしたものの上の contravariant functor (presheaf) に他ならない。

有限 poset と finite \(T_0\)-space との対応は, 一般の poset にも拡張できる。

よって, poset のホモトピー論とは, \(T_0\) Alexandroff space のホモトピー論に他ならない。Alexandroff space については, Kukiela の[Kuk10] を見るとよい。

Poset に位相を入れることは, computer science数理物理など様々分野の人が考えているようで, Nyikos の [Nyi] に\(10\)種類ほどの位相の定義とその比較がある。 そこで扱われているのは, rooted tree に対応した poset 上の位相であるが, 一般の poset で定義できるものがほとんどである。

より初等的なトポロジーとの関係としては, 位相空間をその開集合のなす poset というデータと考え, 位相の本質を取り出したものとして poset を扱 うというものがある。それを small category に一般化したものが Grothendieck topology であるが, そこまで一般化しなくても, poset のままでも色々応用はあるようである。Roberts と Ruzzi の [RR06] や Ruzzi の [Ruz05] など。

Poset をホモトピー論に応用することも行なわれている。例えば, Arone と Mahowald による Goodwillie tower の研究 [AM99] や, Arone と Dwyer によるその結果の解釈 [AD01] などでは, 有限集合の partition から得られる poset の分類空間が用いられている。 また [Rob04] といった研究もある。

もちろん, 他のトポロジーの分野でも使われている。例えば, link の grid diagram からの knot Floer homology の構成を考えた Sarkar の [Sar12] では, poset の shellability が使われている。Sarkar は, ある種の poset から Cohen-Jones-SegalのMorse theory に現われる flow category のPL版を定義している。

Živaljević は, [Živ98] で topological poset の研究を提案している。 その motivation となっているのは, Vassiliev の研究らしい。

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