被覆と弱位相

位相空間の部分集合族による被覆 (cover) は, もちろんコンパクト性の定義に必要な概念である。

一方で, 代数的トポロジーでは, 空間を小さな空間に分解して調べ易くするときに使う。 そのときには, 小さな空間の位相を合せて考えている空間の位相が復元できる必要がある。 そのような位相を弱位相という。

  • 被覆による弱位相 (weak topology)

そのような空間の分割の典型的な例は, CW複体であり, 当然その定義には, 弱位相が入っている。 また, 位相空間の圏を, ホモトピー論を行なうために便利な圏 (convenient category) に変えるときによく使われるコンパクト生成位相にも必要である。

被覆により定まる弱位相が元の位相と一致する場合として, 以下のようなものがある。

  • 任意の開被覆による弱位相はもとの位相と一致する。
  • 有限閉被覆による弱位相はもとの位相と一致する。
  • 局所有限閉被覆による弱位相はもとの位相と一致する。

上に書いたように, 弱位相は様々な場面で必要になるが, トポロジーの初歩でも次の命題はよく使う。

Proposition 1. Suppose that a topological space \(X\) is equipped with a covering \(\{U_{\alpha }\}_{\alpha \in A}\) and that the topology of \(X\) coincides with the weak topology defined by the covering.

Then, for a topological space \(Y\), a map \(f:X\to Y\) is continuous if and only if the restriction \(f|_{U_{\alpha }}\) is continuous for all \(\alpha \in A\).

In other words, given a family of continuous maps \(\{f_{\alpha } : U_{\alpha } \to Y\}_{\alpha \in A}\) that agree on intersections, the map \(f:X\to Y\) defined by \[ f(x) = f_{\alpha }(x), \] when \(x\in U_{\alpha }\), is continuous.

位相空間の図式の colimit に入れる位相も弱位相である。

  • 位相空間の圏が colimit で閉じていること。

1の分割が存在するような被覆を, numerable な被覆という。

  • numerable covering

開集合による被覆は, Grothendieck topology の covering による定義の元になっているものであるが, それに関連した numerable open covering の特徴付けとして, Pavlov [Pav22] によるものがある。 Pavlov はそれを用いて, numerable covering により定まる Grothendieck topology を持つ位相空間の成す site 上の simplicial presheaf の homotopy descent property を調べている。

代数的トポロジーでは, 被覆から元の空間そのものを復元する必要はない。 ホモトピー型, あるいはホモロジーが分かれば十分である。 被覆の各部分集合が可縮なとき, 被覆から作られる poset の分類空間が元の空間とホモトピー同値である, という事実は nerve theorem と呼ばれている。

この MathOverflow の質問は, nerve theorem の起源について尋ねているが, 回答は付いていない。 コメントはたくさんあるが。 ホモトピー型を復元したものは, Borsuk の [Bor48] や Weil [Wei52] が最も古いような気がする。Borsuk のものは, 閉集合への分割であるが。

最近では, 組み合せ論応用トポロジーでよく使われている。

References

[Bor48]

Karol Borsuk. “On the imbedding of systems of compacta in simplicial complexes”. In: Fund. Math. 35 (1948), pp. 217–234.

[Pav22]

Dmitri Pavlov. “Numerable open covers and representability of topological stacks”. In: Topology Appl. 318 (2022), Paper No. 108203, 28. arXiv: 2203.03120. url: https://doi.org/10.1016/j.topol.2022.108203.

[Wei52]

André Weil. “Sur les théorèmes de de Rham”. In: Comment. Math. Helv. 26 (1952), pp. 119–145.