位相ベクトル空間

実数や複素数のように, 位相を持つ体上のベクトル空間は, 位相空間の構造を入れて考えるのが自然である。\(K\) 理論の基礎になっているベクトル束は, そのような位相ベクトル空間の族である。 より一般に位相ベクトル空間は様々な場面で必要になる。 特に, 無限次元の位相ベクトル空間は, 関数解析学などで基本的な道具であるが, 代数的トポロジーでも \(K\)理論などに必要である。また, 当然であるが, 無限次元多様体の基礎にもなる。

まずは, norm や seminorm から定まる位相を持つものを知っておくべきだろう。

  • semi-normed space
  • normed space
  • Banach 空間
  • Hilbert 空間
  • 位相ベクトル空間が locally convex であること

Heunen と Kornell [HK22] は, Hilbert 空間と連続線形写像の成す圏の特徴付けを発見している。 量子力学の基礎に使うことを考えているようである。

その後, Heunen は di Meglio と共に [MH] で, Hilbert 空間と contraction 成す圏の特徴付けを得ている。

代数的トポロジーでは, このような \(\R \) や \(\bbC \) 上の位相ベクトル空間は, K-theory を勉強するときに必要になるが, それとは別の方向として, spectral sequence の収束の議論や, 連結でない spectrum で表現される cohomology theory について議論するときに必要になる, filtrationの入った (次数付き) ベクトル空間に定義される位相がある。

  • filtration の入ったベクトル空間 (filtered vector space) とその位相

これらの位相ベクトル空間の扱いはちょっと面倒である。例えば, tensor product の定義など。Filtered vector space や Hilbert 空間に対しては, 代数的な vector space として tensor product を取り, その completion を取るという標準的な構成があるが, Banach空間などについては, 標準的といえるものがないのである。

  • filtered vector space の completed tensor product
  • Hilbert空間 の tensor product

このことについての基本的な文献は, 今でも Grothendieck の [Gro55] なのだろうか。Ryan の本 [Rya02] もあるが。

この tensor product の問題は, 位相ベクトル空間の成す圏に monoidal category の構造を定義するという問題である。Hilber t空間と bounded operator の成す圏については次のことが知られている。

  • 無限次元 separable Hilbert space と bounded operator の成す圏は \(C^*\)-category になる。

詳しくは Ghez と Lima と Roberts の [GLR85] を参照のこと。

Hilbert 空間の圏の特徴付けは, Heunenn と Kornell により [HK22] で与えられた。\(n\)-Category Café に Heunen による post がある。

Hilbert 空間の典型的な例は, \(\ell ^2\) であるが, より一般に 集合 \(X\) に対し, \(X\) で index された数列を考えることにより \(\ell ^2(X)\) が定義される。 Heunen [Heu] によると, \(\ell ^2(-)\) が集合と partial injection の成す圏からの functor になることを発見したのは Barr [Bar92] である。Heunen はこの functor を詳しく調べている。

別の系統の位相ベクトル空間としては, Berger と Vienney の [BV14] に現れるものがある。そこでは, Lefschetz の本 [Lef42] が参照されている。Barr も [Bar76b; Bar76a] などで調べている。

  • linearly topologized vector space
  • linearly compact vector space

これらは, この Leinster による \(n\)-Category Café の記事で知った。 無限次元ベクトル空間 の dual を取る操作を考えるために導入されたようである。

四元数体 \(\Ha \) 上の Hilbert 空間の類似なども考えられている。Ng の [Ng07] に挙げられている文献を見るとよい。

位相の代わりに bornology という構造を考えることもできる。Block と Daenzer の [BD10] によると, ホモロジー代数を行なうには topological vector space よりも bornological vector space の方がよいらしい。

例えば, bornological vector space の category は closed monoidal category になる。

積を持つものは, topological algebra と呼ばれる。

References

[Bar76a]

Michael Barr. “Closed categories and topological vector spaces”. In: Cahiers Topologie Géom. Différentielle 17.3 (1976), pp. 223–234.

[Bar76b]

Michael Barr. “Duality of vector spaces”. In: Cahiers Topologie Géom. Différentielle 17.1 (1976), pp. 3–14.

[Bar92]

Michael Barr. “Algebraically compact functors”. In: J. Pure Appl. Algebra 82.3 (1992), pp. 211–231. url: http://dx.doi.org/10.1016/0022-4049(92)90169-G.

[BD10]

Jonathan Block and Calder Daenzer. “Mukai duality for gerbes with connection”. In: J. Reine Angew. Math. 639 (2010), pp. 131–171. arXiv: 0803.1529. url: http://dx.doi.org/10.1515/CRELLE.2010.014.

[BV14]

Laurent Berger and Mathieu Vienney. “Irreducible modular representations of the Borel subgroup of \(\GL _2(\Q _p)\)”. In: Automorphic forms and Galois representations. Vol. 1. Vol. 414. London Math. Soc. Lecture Note Ser. Cambridge Univ. Press, Cambridge, 2014, pp. 32–51. arXiv: 1202.3609.

[GLR85]

P. Ghez, R. Lima, and J. E. Roberts. “\(W^\ast \)-categories”. In: Pacific J. Math. 120.1 (1985), pp. 79–109. url: http://projecteuclid.org/euclid.pjm/1102703884.

[Gro55]

Alexandre Grothendieck. “Produits tensoriels topologiques et espaces nucléaires”. In: Mem. Amer. Math. Soc. 1955.16 (1955), p. 140.

[Heu]

Chris Heunen. Categorical aspects of polar decomposition. arXiv: 1012.4526.

[HK22]

Chris Heunen and Andre Kornell. “Axioms for the category of Hilbert spaces”. In: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 119.9 (2022), Paper No. e2117024119, 5. arXiv: 2109.07418.

[Lef42]

Solomon Lefschetz. Algebraic Topology. American Mathematical Society Colloquium Publications, v. 27. New York: American Mathematical Society, 1942, pp. vi+389.

[MH]

Matthew Di Meglio and Chris Heunen. Dagger categories and the complex numbers: Axioms for the category of finite-dimensional Hilbert spaces and linear contractions. arXiv: 2401.06584.

[Ng07]

Chi-Keung Ng. “On quaternionic functional analysis”. In: Math. Proc. Cambridge Philos. Soc. 143.2 (2007), pp. 391–406. arXiv: math/ 0609160. url: https://doi.org/10.1017/S0305004107000187.

[Rya02]

Raymond A. Ryan. Introduction to tensor products of Banach spaces. Springer Monographs in Mathematics. London: Springer-Verlag London Ltd., 2002, pp. xiv+225. isbn: 1-85233-437-1.