Atiyah-Hirzebruch spectral sequence

Atiyah-Hirzebruchスペクトル系列は, Atiyah と Hirzebruch により, CW複体\(K\)-theory を調べるために導入された道具である。 CW複体は, skeletal filtration を持ち, \(K\)-theory は 一般コホモロジーになるので, exact couple ができ, スペクトル系列が誘導される。 それが Atiyah と Hirzebruch による構成であった。 もちろん, \(K\)-theory だけでなく, どんな一般(コ)ホモロジーに対しても同様の構成が適用でき, スペクトル系列が得られる。これが古典的な Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列の構成である。

Serre スペクトル系列も, 古典的な構成では底空間の skeletal filtration で定義されるので, その構成を一般(コ)ホモロジーに適用すると, ファイブレーションに対する Serre スペクトル系列と Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列の間の子のようなスペクトル系列ができる。 それも Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列と呼んでよいだろう。

現在では, 単体的空間のホモロジースペクトル系列 として扱うのが楽だろう。そうすれば \(E^2\)-term もすぐに分かるし, 収束についても, ホモロジースペクトル系列の一般論で済む。残念ながら, そのように扱っている文献は少ないが。 Serre スペクトル系列についても, 古典的な鎖複体を用いたものや, 底空間の胞体分割を用いた構成で述べてあるものがほとんどである。 これらを単体的空間のホモロジースペクトル系列として扱ったものとしては, Segal の論文 [Seg68] が唯一と言っていいだろう。 そこで, [河玉08] では Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列と Serre スペクトル系列を, 単体的空間のホモロジースペクトル系列として定義してみた。

Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列の性質として知っておくとよいのが, Maunder によるその微分に関する結果 [Mau63] である。日本語では荒木の本 [荒木捷75] に解説がある。それは, Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列が, その係数のスペクトラムの Postnikov 分解から誘導される fibration の tower のホモトピースペクトル系列と同型であることを示すことにより得られる。

  • Atiyah-Hirzebruchスペクトル系列は, その係数のスペクトラムの Postnikov 分解から誘導される fibration の tower のホモトピースペクトル系列と同型である
  • Atiyah-Hirzebruch スペクトル系列の微分は, その係数のスペクトラムの Postnikov 分解の \(k\)-invariant である。

このことから, 最初の自明でない微分が Steenrod operation で与えられることが分かる。これは, \(K\)-theory については, Atiyah と Hirzebruch が既に気付いていたことであるが。

更に, Atiyah-Hirzebruchスペクトル系列の微分が torsion とも関連が深いことが分かる。これについては, この MathOverflow の質問に対する Goodwillie による回答を見るとよい。

Motivic homotopy theory での類似として, slice spectral sequence と呼ばれるものがある。

  • slice spectral sequence

Bloch と Lichtenbaum によるもの [BL95], Grayson のもの [Gra95], そして Voevodsky [Dun+07] のもの, の3種類の構成があるが, Levine [Lev08] と Garkusha と Panin [GP] の仕事により, これらは全て同型であることが知られている。

References

[BL95]

Spencer Bloch and Steve Lichtenbaum. A Spectral Sequence for Motivic Cohomology. K-theory Preprint Archive 62. 1995. url: http://www.math.uiuc.edu/K-theory/0062/.

[Dun+07]

B. I. Dundas, M. Levine, P. A. Østvær, O. Röndigs, and V. Voevodsky. Motivic homotopy theory. Universitext. Lectures from the Summer School held in Nordfjordeid, August 2002. Springer-Verlag, Berlin, 2007, pp. x+221. isbn: 978-3-540-45895-1; 3-540-45895-6. url: http://dx.doi.org/10.1007/978-3-540-45897-5.

[GP]

Grigory Garkusha and Ivan Panin. On the motivic spectral sequence. arXiv: 1210.2242.

[Gra95]

Daniel R. Grayson. “Weight filtrations via commuting automorphisms”. In: \(K\)-Theory 9.2 (1995), pp. 139–172. url: http://dx.doi.org/10.1007/BF00961457.

[Lev08]

Marc Levine. “The homotopy coniveau tower”. In: J. Topol. 1.1 (2008), pp. 217–267. arXiv: math/0510334. url: http://dx.doi.org/10.1112/jtopol/jtm004.

[Mau63]

C. R. F. Maunder. “The spectral sequence of an extraordinary cohomology theory”. In: Proc. Cambridge Philos. Soc. 59 (1963), pp. 567–574.

[Seg68]

Graeme Segal. “Classifying spaces and spectral sequences”. In: Inst. Hautes Études Sci. Publ. Math. 34 (1968), pp. 105–112. url: http://www.numdam.org/item?id=PMIHES_1968__34__105_0.

[河玉08]

河野明 and 玉木大. 一般コホモロジー. 東京: 岩波書店, 2008, p. 246.

[荒木捷75]

荒木捷朗. 一般コホモロジー. Vol. 4. 紀伊國屋数学叢書. 東京: 紀伊國屋書店, 1975.