完全対とスペクトル系列の基本

完全対 (exact couple) の概念は, Massey [Mas52] により導入された。 それまで, ad hoc な方法で構成されていたスペクトル系列を, 統一的に扱えるようにしたという点で, 画期的なアイデアである。

  • 完全対の定義
  • 完全対の導来対 (derived couple)
  • 完全対から作られるスペクトル系列
  • 完全対の準同形

代数的トポロジーでは長い完全列ができる場合がよくあり, その長い完全列を束ねることにより完全対, よってスペクトル系列ができる。 典型的なのは次の2つの場合である。

[河玉08] のスペクトル系列の章は, 代数的トポロジーに現われるスペクトル系列は, 基本的にこの2種類に分類されるという視点で書いた。 鎖複体に filtration を入れてできるスペクトル系列もこの類である。

よって, 代数的トポロジーでスペクトル系列を作ろうと思ったら, cofibration の列か fibration の tower を作ればいいのであるが, それぞれ simplicial spacecosimplicial space から作られる場合が多いことを, 頭に入れておくとよい。

ただ, fibration の tower からホモトピー群 (ホモトピー集合) によりできる spectral sequence を用いるときは, 低次元の部分で少し注意が必要である。 \(\pi _0\) や \(\pi _1\) は, Abel群になるとは限らないので, 普通の意味ではホモロジー代数ができないからである。 これについては, Grandis の [Gra10] がある。

スペクトル系列における代数的構造, 例えば algebra structure や coalgebra structure などは, 完全対の tensor product という概念を用いると, すっきりと定義できる。

  • 完全対の tensor product

スペクトル系列を使う上でまず気をつけなければならないのが, 収束の問題である。スペクトル系列の \(E^{\infty }\) 項から, 目的の群 (環) が得られるかどうかという問題である。

「スペクトル系列の収束」という言葉は, 様々な文献で様々な意味で使われている。 完全対から得られたスペクトル系列の収束問題については, Boardman の論文 [Boa99] を読むとよい。

  • スペクトル系列の各種収束

References

[Boa99]

J. Michael Boardman. “Conditionally convergent spectral sequences”. In: Homotopy invariant algebraic structures (Baltimore, MD, 1998). Vol. 239. Contemp. Math. Providence, RI: Amer. Math. Soc., 1999, pp. 49–84.

[Gra10]

Marco Grandis. “Homotopy spectral sequences”. In: J. Homotopy Relat. Struct. 5.1 (2010), pp. 213–252. arXiv: 1007.0632.

[Mas52]

W. S. Massey. “Exact couples in algebraic topology. I, II”. In: Ann. of Math. (2) 56 (1952), pp. 363–396. url: http://dx.doi.org/10.2307/1969805.

[河玉08]

河野明 and 玉木大. 一般コホモロジー. 東京: 岩波書店, 2008, p. 246.