ファイブレーションに関する基本的な概念

ファイブレーション (fibration) という言葉で呼ばれるものには何種類かあるが, ここでは古典的なホモトピー論で用いられているものについてまとめた。 日本語の本なら, 西田の本 [西田吾85] や私の本 [玉20] などに書いてあることである。 つまり, Serre fibration や Hurewicz fibration について, である。

まずは この2種類の fibration の定義であるが, 普通は covering homotoopy property (homotopy lifting property) を用いる。

  • 被覆ホモトピー性質 (covering homotopy property, CHP) あるいはホモトピー持ち上げ性質 (homotopy lifting property, HLP)

用語としては, 最近では homotopy lifting property の方が covering homotopy property より一般的なようである。その相対版として Dugger と Isaksen の [DI04] に relative homotopy lifting property が登場する。それを用いると, ホモトピー群を用いずに, 弱ホモトピー同値写像の特徴付けができる。

  • relative homotopy lifting property

全ての空間に対し HLP を持つのが Hurewicz fibration で, 全ての CW 複体に対し HLP を持つのが Serre fibration である。

  • Hurewicz fibration
  • Serre fibration

このページでは, これらの fibration を区別する必要がないときには, まとめて fibration と呼ぶことにする。 2つの fibration を比べるときには, その間の写像やその homotopy が必要である。

  • fibration \[ \begin {split} p & : E \longrightarrow B \\ p' & : E' \longrightarrow B' \end {split} \] に対し \(p\) から \(p'\) へのファイバーを保つ写像
  • fibration の間ファイバーを保つ写像の間のホモトピーおよび ファイバーホモトピー同値

Fiber bundle の真似をして, 局所 (homotopy) 自明性を用いて定義する流儀もある。 Fadell の [Fad59] で登場したのが最初なのだろうか。 Dold [Dol63] によると, それは numerable な被覆を持つ空間に対しては, weak covering homotopy property を用いて定義したものと同値である。

  • locally homotopy trivial fibration
  • weak covering homotopy property or weak homotopy lifting property

Weak covering homotopy property は Dold の [Dol63] で登場したものだと思うが, そこでは Fuchs によっても考えられている, と書かれている。

この MathOverflow の質問では, 全ての空間に対し weak homotopy lifting property を持つものを Dold fibration と呼んでいる。

  • Dold fibration

Locally homotopy trivial fibration に対しては, Čech cocycle のような transition cocycle が考えられる。もともと James Wirth の thesis で1965年に調べられたものであるが, 最近の用語等を用いて Wirth と Stasheff がまとめたもの [WS06] がある。

  • locally homotopy trivial fibration の transition cocycle

典型的な例としては以下のものがある。

  • 基点付き空間 \(X\) に対し \(X\) 上の path-loop fibration \[ \Omega X \longrightarrow PX \longrightarrow X \] は Hurewicz fibration になる。
  • ファイバー束が Serre fibration になること。

Serre fibraion であるが Hurewicz fibration ではない例については, Ron Brown のもの [Bro66] や Allaud のもの [All68] がある。 この MathOverflow の質問への回答にもあるように, これらは, Serre fibration であるが, Dold fibration ではないものの例にもなっている。

基本的な性質としては, まずは次を知っているべきだろう。

  • 任意の連続写像は, Hurewicz fibration に変形できる, つまり 連続写像 \(f : X \to Y\) に対し \(E_f\) を \(f\) の mapping track とし \[ \begin {split} p & : E_f \longrightarrow Y \\ i & : X \longrightarrow E_f \\ r & : E_f \longrightarrow X \end {split} \] を \[ \begin {split} p(x,\omega ) & = \omega (1) \\ i(x) & = (x,c_{f(x)}) \\ r(x,\omega ) & = x \end {split} \] で定義すると, 次が成り立つ:

    1. \(p : E_f \to Y\) は Hurewicz fibration である。
    2. \(i\)は次の図式を可換にし \[ \xymatrix { X \ar [r]^{i} \ar [d]_{f} & E_f \ar [d]^{p} \\ Y \ar @{=}[r] & Y } \] \(f\circ r \simeq p\) である。
    3. \(i\) と \(r\) は互いに homotopy inverse である。
  • 連続写像の homotopy fiber の定義。

ここで, \(r\) は \(i\) の homotopy inverse ではあるが, fiberwise homotopy inverse ではないことに注意する。しかしながら, fiberwise homotopy inverse を見付けることはできる。

  • Fibration の写像 \[ \xymatrix { E \ar [dr] \ar [rr]^{f} & & E' \ar [dl] \\ & B & } \] が homotopy同値写像ならば, \(f\) の homotopy inverse として fibration の写像であるものが取れる。更に fiberwise homotopy inverse であるように取ることもできる。

この事実は [May99] にある。これを用いると次が証明できる。

  • 底空間が弧状連結ならば, Hurewicz fibration の fiber はすべて同じホモトピー型を持つ。
  • Hurewicz fibration を互いに homotopic な2つ写像で pull-back を取ると, できた fibration は fiberwise homotopy 同値。
  • \(p : E \to B\) が Hurewicz fibration ならば, \(p\) を fibration に取り換えてできた fibration \[ E_p \longrightarrow B \] は元の fibration と fiber homotopy同値

これらは次を使っても証明できる。

  • \(p : E \to B\) が Hurewicz fibration であるための必要十分条件は, \(\lambda \circ \xi = 1_{E_p}\) をみたす写像 \[ \xi : E_p \longrightarrow \mathrm {Map}(I,E) \] が存在すること。ただし \(E_p\) は \(p\) の mapping track であり \[ \lambda : \mathrm {Map}(I,E) \longrightarrow E_p \] は \[ \lambda (\omega ) = (\omega (0), p\circ \omega ) \] で定義される写像。[Hur55; Hue55]

Serre fibration については次が成り立つ。

  • 底空間が弧状連結ならば, Serre fibration の fiber は, すべて同じ弱ホモトピー型を持つ。

他に知っているべきなのは以下のこと。

  • cofibration に対し, covering homotopy extension property を持つ。[Has74]
  • Hurewicz あるいは Serre fibration の連続写像による pull-back は, また Hurewicz あるいは Serre fibration になること。
  • Serre fibration, よって Hurewicz fibration に対するホモトピー群の長い完全列がある。
  • 連続写像 \[ f : X \longrightarrow Y \] は fibration の列 \[ \cdots \longrightarrow \Omega X \rarrow {\Omega f} \Omega Y \longrightarrow F_f \longrightarrow X \rarrow {f} Y \] に拡張できること。
  • Hurewicz fibration の fiberwise join は Hurewicz fibration になる。

この最後の事実は, 位相空間の圏の Strøm モデル構造で, functorial factorization の存在を示すために用いられている。

References

[All68]

Guy Allaud. “On an example of R. Brown”. In: Arch. Math. (Basel) 19 (1968), 654–655 (1969). url: https://doi.org/10.1007/BF01899397.

[Bro66]

R. Brown. “Two examples in homotopy theory”. In: Proc. Cambridge Philos. Soc. 62 (1966), pp. 575–576. url: https://doi.org/10.1017/s0305004100040238.

[DI04]

Daniel Dugger and Daniel C. Isaksen. “Weak equivalences of simplicial presheaves”. In: Homotopy theory: relations with algebraic geometry, group cohomology, and algebraic \(K\)-theory. Vol. 346. Contemp. Math. Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2004, pp. 97–113. arXiv: math/ 0205025. url: https://doi.org/10.1090/conm/346/06292.

[Dol63]

Albrecht Dold. “Partitions of unity in the theory of fibrations”. In: Ann. of Math. (2) 78 (1963), pp. 223–255. url: https://doi.org/10.2307/1970341.

[Fad59]

Edward Fadell. “On fiber spaces”. In: Trans. Amer. Math. Soc. 90 (1959), pp. 1–14. url: https://doi.org/10.2307/1993265.

[Has74]

Harold M. Hastings. “Fibrations of compactly generated spaces”. In: Michigan Math. J. 21 (1974), 243–251 (1975). url: http://projecteuclid.org/euclid.mmj/1029001312.

[Hue55]

William Huebsch. “On the covering homotopy theorem”. In: Ann. of Math. (2) 61 (1955), pp. 555–563. url: https://doi.org/10.2307/1969813.

[Hur55]

Witold Hurewicz. “On the concept of fiber space”. In: Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 41 (1955), pp. 956–961. url: https://doi.org/10.1073/pnas.41.11.956.

[May99]

J. P. May. A concise course in algebraic topology. Chicago Lectures in Mathematics. Chicago, IL: University of Chicago Press, 1999, pp. x+243. isbn: 0-226-51182-0.

[WS06]

James Wirth and Jim Stasheff. “Homotopy transition cocycles”. In: J. Homotopy Relat. Struct. 1.1 (2006), pp. 273–283. arXiv: math/ 0609220.

[玉20]

玉木大. ファイバー束とホモトピー. 森北出版, 2020, p. 320. isbn: 978-4-627-05461-5.

[西田吾85]

西田吾郎. ホモトピー論. Vol. 16. 共立講座現代の数学. 東京: 共立出版, 1985.