Hopf 空間は, 簡単に言えば, Lie群 (位相群) のホモトピー論的な類似である。位相群の体係数のコホモロジーは, Hopf algebra
の構造を持つが, 逆にコホモロジーが Hopf algebra の構造を持つためにはどのような情報が必要かを考えると Hopf
空間の概念を得る。
Hopf 空間についてはいくつか本もでている。Zabrodsky の本 [Zab76] や R. Kane の本 [Kan88] である。
日本語では, 三村の [三村護86] に Hopf 空間関係の各種の話題が集められている。
通常 Hopf 空間と言ったときには, homotopy 単位元の存在しか仮定しない。それではあまりにも扱いづらいので,
位相群に近くなるようにいくつか条件を付けたものも考える。
- Hopf 空間が, homotopy associative であること
- Hopf 空間が, homotopy commutative であること
- Hopf空間 が, homotopy inverse を持つこと
- topological monoid
Topological monoid に対しては「homotopy inverse を持つ」というより「group-like」という条件の方が一般的である。
- topological monoid が group-like であることの定義。およびそれと同値な条件。 ([西田吾85] のp.112
補題4.3.3参照)
Hopf 空間が homotopy inverse を持つための条件については, 例えば [Seg74] のp. 296 に書いてあるものがある。
- \(X\)が, \(\pi _0(X)\) が群になり, 可縮な部分集合による numerable な被覆を持つ Hopf 空間なら, \(X\) は homotopy inverse
を持つ。
Hopf 空間の homotopy associativity の研究は, 菅原 [Sug57b; Sug57a] から始まったと言っていいのだろうか。
私は専門家でないので断言はできない。有名なのは Stasheff の研究 [Sta63; Sta70] である。
ただし, [Sta63] では, strict unit に関する条件が入っているが, [Sta70] では, その条件が抜けている。この違いについては,
九州大学の岩瀬氏から指摘を受けた。
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associahedron
- strict unit を持つ \(A_n\)-space
- unit に関する条件の無い \(A_n\)-space
- 弧状連結で non-degenerate な基点を持つ空間が loop 空間と weak equivalence, つまり
delooping を持つための必要十分条件は, \(A_{\infty }\)-space の構造を持つことである。
現在この高次ホモトピー結合性 (\(A_{\infty }\)構造) の概念は位相空間以外の圏にも拡張され, \(A_{\infty }\)-algebra や \(A_{\infty }\)-category などの概念を創出している。
位相空間の圏での \(A_{n}\) 構造を monoid構造の “up to homotopy” 版と考えるならば, unit に関する条件も “up to
homotopy” にするのが自然であるが, “homotopy unit を持つ \(A_{n}\) 構造”の定義は, まだ得られていないようである。
全く別の視点からの “topological monoidのup to homotopy 版”へのアプローチとして Leinster の [Lei]
がある。 \(A_n\) 構造との関係は, まだよく分からないようであるが。Leinster のアイデアを発展させて, Bacard [Bac] が bicategory
による enrichment を考えていて興味深い。
Hopf空間は, Lie群のホモトピー論的性質を調べるために導入された概念であるが, その中でも Lie群に近いものとして, finite loop
space の概念が導入されている。
References
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[Bac]
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Hugo V. Bacard. Segal Enriched Categories I. arXiv: 1009.3673.
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[Kan88]
-
Richard M. Kane. The homology of Hopf spaces. Vol. 40.
North-Holland Mathematical Library. Amsterdam: North-Holland
Publishing Co., 1988, pp. xvi+479. isbn: 0-444-70464-7.
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[Lei]
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Tom Leinster. Homotopy Algebras for Operads. arXiv: math/0002180.
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[Seg74]
-
Graeme Segal. “Categories
and cohomology theories”. In: Topology 13 (1974), pp. 293–312. url:
https://doi.org/10.1016/0040-9383(74)90022-6.
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[Sta63]
-
James Dillon Stasheff. “Homotopy associativity of \(H\)-spaces. I, II”. In:
Trans. Amer.
Math. Soc. 108 (1963), 275-292; ibid. 108 (1963), pp. 293–312. url:
https://doi.org/10.1090/s0002-9947-1963-0158400-5.
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[Sta70]
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James Stasheff. \(H\)-spaces from a homotopy point of view. Lecture Notes
in Mathematics, Vol. 161. Berlin: Springer-Verlag, 1970, pp. v+95.
-
[Sug57a]
-
Masahiro Sugawara. “A condition that a space is group-like”. In:
Math. J. Okayama Univ. 7 (1957), pp. 123–149.
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[Sug57b]
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Masahiro Sugawara. “On a condition that a space is an \(H\)-space”. In:
Math. J. Okayama Univ. 6 (1957), pp. 109–129.
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[Zab76]
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Alexander Zabrodsky. Hopf spaces. North-Holland Mathematics
Studies, Vol. 22, Notas de Matemática, No. 59. Amsterdam:
North-Holland Publishing Co., 1976, pp. x+223.
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[三村護86]
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三村護. ホップ空間. Vol. 26. 紀伊國屋数学叢書. 東京: 紀伊國屋書店, 1986.
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[西田吾85]
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西田吾郎. ホモトピー論. Vol. 16. 共立講座現代の数学. 東京: 共立出版, 1985.
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