双曲幾何学

古典的には, 双曲幾何学は非ユークリッド幾何学のモデルの一つとして研究され始めた。 現在では, Thurston により\(3\)次元 の双曲多様体の研究として発展した部分もあるが, modular form の定義域としての, 複素平面の上半平面の metric としても重要である。

双曲幾何学については, 初等的なものも含め各種の本が出版されている。 日本語で書かれた分かり易いものとして, [平井武01] がある。

\(2\)次元の双曲幾何のモデルとして, 有名なものは以下のものである:

  • 双曲面モデル
  • Poincaré disk モデル
  • 上半平面モデル
  • Klein disk モデル (Bertrami-Klein モデル)

実は, これ以外にも, 様々なものが考案されている。

「双曲幾何学」という言葉の意味を理解するためには, 球面上の幾何の類似として双曲面上に定義された幾何, と思うのがよいだろう。

球面上の幾何や双曲幾何は, 射影幾何を用いた解釈もある。 Fillastre と Seppi の [FS19] を見るとよい。

ここでの「幾何」とは, Klein の意味での幾何, つまり変換群であるが, 双曲面モデルの変換群 \(\SO _0(2,1)\) は上半平面モデルにうつすと \(\PSL _2(\R )\) と同型になることが分かる。同様に\(3\)次元の場合 \(\SO _0(3,1)\) は \(\PSL _2(\bbC )\) と同型になる。その同型で, \(\PSL _2(\bbC )\) の極大コンパクト部分群は \(\SO _0(3,1)\) の極大コンパクト部分群 \(\SO (3)\) に対応していることも分かる。

二重被覆 \[ \SL _2(\bbC ) \longrightarrow \PSL _2(\bbC ) \] から極大コンパクト群の間の二重被覆 \[ \SU (2) \longrightarrow \SO (3) \] が得られるが, \(\SO (3)\)の有限部分群は巡回群, 二面体群, 正多面体群であることは有名な事実であり, \(\SU (2)\)の有限部分群はこれらの\(2\)重被覆群で与えられる。これらの有限群の \(\bbC ^2\)への作用により現れる特異点をKlein型特異点 (Kleinian singularity) という。

また, 一般に \(\SO _0(n,1)\) の有限部分群を Kleinian group と呼ぶ。Survey として Kapovich の [Kap08] がある。

Reflection group の類似として, hyperbolic reflection groupがある。

一般化としては, 複素数や四元数上の双曲幾何学もある。

  • complex hyperbolic geometry
  • quaternionic hyperbolic geometry

Complex hyperbolic geometry については, Goldman の本 [Gol99] がある。また, これらを統一して扱う方法として, Anan\('\)in と Grossi が [AG11] で提案しているものがあるが, そこでは [AGG11] の Appendix が参照されている。

References

[AG11]

Sasha Anan’in and Carlos H. Grossi. “Coordinate-free classic geometries”. In: Mosc. Math. J. 11.4 (2011), pp. 633–655, 821. arXiv: math/0702714. url: https://doi.org/10.17323/1609-4514-2011-11-4-633-655.

[AGG11]

Sasha Anan\('\)in, Carlos H. Grossi, and Nikolay Gusevskii. “Complex hyperbolic structures on disc bundles over surfaces”. In: Int. Math. Res. Not. IMRN 19 (2011), pp. 4295–4375. arXiv: math/0511741. url: https://doi.org/10.1093/imrn/rnq161.

[FS19]

François Fillastre and Andrea Seppi. “Spherical, hyperbolic, and other projective geometries: convexity, duality, transitions”. In: Eighteen essays in non-Euclidean geometry. Vol. 29. IRMA Lect. Math. Theor. Phys. Eur. Math. Soc., Zürich, 2019, pp. 321–409. arXiv: 1611.01065.

[Gan66]

David Gans. “Classroom Notes: A New Model of the Hyperbolic Plane”. In: Amer. Math. Monthly 73.3 (1966), pp. 291–295. url: https://doi.org/10.2307/2315350.

[Gol99]

William M. Goldman. Complex hyperbolic geometry. Oxford Mathematical Monographs. Oxford Science Publications. New York: The Clarendon Press Oxford University Press, 1999, pp. xx+316. isbn: 0-19-853793-X.

[Kap08]

Michael Kapovich. “Kleinian groups in higher dimensions”. In: Geometry and dynamics of groups and spaces. Vol. 265. Progr. Math. Basel: Birkhäuser, 2008, pp. 487–564. arXiv: math/0701370. url: http://dx.doi.org/10.1007/978-3-7643-8608-5_13.

[Rey93]

William F. Reynolds. “Hyperbolic geometry on a hyperboloid”. In: Amer. Math. Monthly 100.5 (1993), pp. 442–455. url: https://doi.org/10.2307/2324297.

[平井武01]

平井武. 線形代数と群の表現I,II. 東京: 朝倉書店, 2001, p. v 484.