トポロジーの歴史

この website のトップページの「基本」のところに歴史のことが入っているのは, 奇異に思うかもしれない。 しかし, この100年間の急速な発展により, 高度なテクニックと抽象的な概念を使うようになったトポロジーでは, そのような道具の意味が見えづらくなっている。 最先端の仕事を意味を理解するためには, トポロジーの起源 やその motivation を理解することが重要, だと思う。

Manin は [Man] で, category theory やホモトピー論やそれらの higher version は, 数学の基礎としての役割を果たすようになってきている, と書いているが, それには, [玉12] に書いたように, 私も同意する。 そのような数学全体の中での代数的トポロジーやホモトピー論の役割を考える上でも, これまでの発展の経緯を理解しておくことは必要だろう。

トポロジーの歴史については, Dieudonné の本 [Die09] をまず見るべきだろう。1960年代までしか書かれていないが, Poincaré の Analysis Situs が登場した頃のことは, とても詳しく書かれている。 もちろん, トポロジー以外の分野の歴史も, 知っているに越したことはない。

Novikov の [Nov00] では, classical topology から現代の数理物理に影響された topology へ至るまでのことが簡潔にまとめられているが, その中にはかなり批判的な意見も交えてある。 70年代には, 重要な結果が証明されているか否かについて“混乱”が起ったと言っているが, それは, 数学における「証明」の意味についての Novikov からの問い掛けでもある。比較されているのは物理学であり, その中で現われる “nonrigorous mathematics” という表現が面白い。 数理物理の人は, “nonrigorous mathematics” をやっているだけであり, 証明はしていないことをみんな分かっているから, 混乱が起きないのだという。

この手のことは, 何度も話題になってきたことだと思うが, 1990年に Witten が Fields medal をとった頃から, 表だって議論されるようになったように思う。 それよりも少し前, 80年代の後半に Witten が活躍し出してからかもしれないが。

1990年代の前半には, AMS の Bulletin での議論があった。 「数学とは何か」を考えるためにも, これらを一通り読んでみるのはよいと思う。

  • Jaffe と Quinn の [JQ93]
  • Atiyah を始めとした多数の数学者物理学者による反応 [Aa94]
  • Jaffe と Quinn のそれに対する反応 [JQ94]
  • Thurston の [Thu94]

References

[Aa94]

Michael Atiyah and et al. “Responses to: A. Jaffe and F. Quinn, “Theoretical mathematics: toward a cultural synthesis of mathematics and theoretical physics” [Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 29 (1993), no. 1, 1–13; MR1202292 (94h:00007)]”. In: Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 30.2 (1994), pp. 178–207. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0273-0979-1994-00503-8.

[Die09]

Jean Dieudonné. A history of algebraic and differential topology 1900–1960. Modern Birkhäuser Classics. Reprint of the 1989 edition [MR0995842]. Birkhäuser Boston, Ltd., Boston, MA, 2009, pp. xxii+648. isbn: 978-0-8176-4906-7. url: https://doi.org/10.1007/978-0-8176-4907-4.

[JQ93]

Arthur Jaffe and Frank Quinn. ““Theoretical mathematics”: toward a cultural synthesis of mathematics and theoretical physics”. In: Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 29.1 (1993), pp. 1–13. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0273-0979-1993-00413-0.

[JQ94]

Arthur Jaffe and Frank Quinn. “Response to: “Responses to: A. Jaffe and F. Quinn, ‘Theoretical mathematics: toward a cultural synthesis of mathematics and theoretical physics’ ” [Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 30 (1994), no. 2, 178–207; MR1254073 (95b:00003)] by M. Atiyah et al”. In: Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 30.2 (1994), pp. 208–211. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0273-0979-1994-00506-3.

[Man]

Yu. I. Manin. Truth as value and duty: lessons of mathematics. arXiv: 0805.4057.

[Nov00]

Sergey P. Novikov. “Classical and modern topology. Topological phenomena in real world physics”. In: Geom. Funct. Anal. Special Volume, Part I (2000). GAFA 2000 (Tel Aviv, 1999), pp. 406–424. arXiv: math-ph/0004012.

[Thu94]

William P. Thurston. “On proof and progress in mathematics”. In: Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 30.2 (1994), pp. 161–177. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0273-0979-1994-00502-6.

[玉12]

玉木大. 広がりゆくトポロジーの世界 — 言語としてのホモトピー論. 京都: 現代数学社, 2012, pp. viii+235.