単体的複体を細分する方法として, 最も一般的なのが重心細分 (barycentric subdivision) である。 Euclid
単体的複体の場合は, 各単体の重心を取り, それらを結んでできる分割なので, 重心細分という名前に納得できる。
抽象単体的複体については, 重心という概念が無いので, 別の方法で定義する必要がある。単体 \(\sigma \) の重心を \(\sigma \) 自身で表して,
それらを結ぶということを順に「大きくなる」単体の列 \[ \sigma _{0} \le \sigma _{1} \le \cdots \le \sigma _{n} \] で表す。ただし順序関係は包含で定義されるものである。 つまり, 単体的複体 \(K\) の face
poset \(F(K)\) での chain を単体とする (順序付き) 抽象単体的複体を \(K\) の重心細分として定義する。
- 抽象単体的複体 \(K\) の重心細分 \(\mathrm {Sd}(K)\)
ここで, poset \(P\) の chain 全体の成す順序付き単体的複体は, \(P\) の order complex と呼ばれる。 よく \(\Delta (P)\)
と書かれるが, \(P\) を small category とみなしたときは, nondegenerate nerve \(\overline {N}(P)\) のことである。よって, 重心細分は \[ \mathrm {Sd}(K) = \overline {N}(F(K)) \]
と定義することができる。
一方, 重心細分が同型ならば元の単体的複体が同型であるという事実は, Finney により [Fin65] で証明されている, ということをこの
MathOverflow の議論で知った。
CW複体 \(X\) のときは, 各\(n\)胞体 \(e\) には, 特性写像 \[ \varphi : D^{n} \rarrow {} \overline {e} \] が付随するので, \(D^{n}\) の原点を \(\varphi \) で写した点を \(e\) の重心と定義することができる。ただ,
それらの重心を結ぶためには, 当然であるが, 特性写像の間の関係が必要になる。
最も簡単なのは, 特性写像が全て同相写像である場合, つまり regular な場合である。 この場合 face poset \(F(X)\) が定義されるので,
順序付き単体的複体 \(\overline {N}(F(X))\) が定義される。 その幾何学的実現は, canonical な regular cell complex の構造を持つので, それを \(X\)
の重心細分と呼ぶべきだろう。 つまり \[ \mathrm {Sd}(X) = \|\overline {N}(F(X))\| \] である。これが, 元の \(X\) と同相であることの証明は, 例えば, [Bjö+99] の §4.7
にある。
右辺は, \(F(X)\) を small category とみなしたときの分類空間 \(BF(X)\) であり, より一般には, cell の集合を対象とする small category
を定義し, それに対し \(X\cong BF(X)\) を証明するべきである。 と考えて書いたのが, [Tam18] であり, そこでは cylindrically normal という
regular を一般化した構造を持つ場合が証明してある。
また, poset \(P\) に対し, \(\overline {N}(P)\) は chain の包含により poset になるので, これを \(P\) の重心細分と呼んでもよいだろう。 実際,
これを一般化して, small category の重心細分が定義される。
References
-
[Bjö+99]
-
Anders Björner, Michel Las Vergnas, Bernd Sturmfels, Neil White,
and
Günter M. Ziegler. Oriented matroids. Second. Vol. 46. Encyclopedia
of Mathematics and its Applications. Cambridge: Cambridge
University Press, 1999, pp. xii+548. isbn: 0-521-77750-X. url:
http://dx.doi.org/10.1017/CBO9780511586507.
-
[Fin65]
-
Ross L. Finney. “The insufficiency of barycentric subdivision”. In:
Michigan Math. J. 12 (1965), pp. 263–272.
-
[Tam18]
-
Dai Tamaki. “Cellular stratified spaces”. In: Combinatorial and toric
homotopy. Vol. 35. Lect. Notes Ser. Inst. Math. Sci. Natl. Univ.
Singap. World Sci. Publ., Hackensack, NJ, 2018, pp. 305–435. arXiv:
1609.04500.
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